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現代語訳

菊池寛きくちかん)・1957

AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23

摂津の半国を治める松山新介の侍大将・中村新兵衛は、畿内から中国地方にかけてその名を知られた、並外れた猛将だった。

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摂津せっつ半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内中国に聞こえた大豪の士であった。

当時、畿内に勢力を分け合っていた筒井・松永・荒木・和田・別所といった大名や小名の家臣たちの中で、「槍中村」の名を

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そのころ、畿内を分領していた筒井つつい、松永、荒木、和田、別所など大名小名の手の者で、『やり中村』

知らない者は、おそらく一人もいなかったはずだ。

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を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。

それほど新兵衛は、自在に操る三間柄の大きな槍の穂先で、先陣でも殿軍でも数々の功名を積み重ねていた。

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それほど、新兵衛はそのしごき出す三間の大身の鎗の鋒先ほこさきで、さきがけ殿しんがりの功名を重ねていた。

さらに、戦場における彼の武者姿は、際立って華やかだった。

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そのうえ、彼の武者姿は戦場において、水ぎわ立ったはなやかさを示していた。

炎のような真っ赤な猩々緋の陣羽織をまとい、唐冠形で金の纓飾りがついた兜をかぶった彼の姿は、敵味方の目にまばゆいほど鮮やかに映った。

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火のような猩々緋しょうじょうひの服折を着て、唐冠纓金えいきんかぶとをかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。

「あの猩々緋だ、唐冠だ」

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「ああ猩々緋よ唐冠よ」

と、敵の兵たちは新兵衛の槍先から逃げ散った。

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と敵の雑兵は、新兵衛の鎗先を避けた。

味方が崩れかけたとき、荒波の中に立つ岩のように敵勢を押しとどめる猩々緋の姿が、仲間にとってどれほど頼もしかったか、言葉では言い表せないほどだった。

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味方がくずれ立ったとき、激浪の中に立つ巌のように敵勢をささえている猩々緋の姿は、どれほど味方にとってたのもしいものであったかわからなかった。

また嵐のように敵陣へ突っ込むとき、その先頭で輝く唐冠の兜が、敵にとってどれほどの恐怖だったか、これも計り知れなかった。

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またあらしのように敵陣に殺到するとき、その先頭に輝いている唐冠の兜は、敵にとってどれほどの脅威であるかわからなかった。

こうして「槍中村」の猩々緋と唐冠の兜は、戦場の花であり、敵への脅威であり、味方にとっては信頼のよりどころだった。

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こうして鎗中村の猩々緋と唐冠の兜は、戦場のはなであり敵に対する脅威であり味方にとっては信頼のまとであった。

「新兵衛殿、折り入ってお願いがあります」

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「新兵衛どの、おり入ってお願いがある」

と、元服してまだ間もないらしい美男の侍が、新兵衛の前に手をついた。

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と元服してからまだ間もないらしい美男のさむらいは、新兵衛の前に手を突いた。

「何事じゃ、そなたとわしの間に、そんな遠慮はいらぬぞ。望みというのを、早く言ってみろ」

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「なにごとじゃ、そなたとわれらの間に、さような辞儀はいらぬぞ。望みというを、はよういうて見い」

と、包み込むような優しい顔で新兵衛は相手を見た。

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と育ぐくむような慈顔をもって、新兵衛は相手を見た。

その若い侍は、新兵衛の主君・松山新介の側室の子だった。

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その若いさむらいは、新兵衛の主君松山新介の側腹の子であった。

幼い頃から新兵衛が守り役として、わが子のように愛情を持って育ててきた相手だった。

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そして、幼少のころから、新兵衛が守り役として、わが子のようにいつくしみ育ててきたのであった。

「他でもありません。明日はわたしの初陣ですので、なんとか派手な手柄を立てたいのです。ついては、あなたの猩々緋と唐冠の兜をお貸しいただけないでしょうか。あの陣羽織と兜を着けて、敵を驚かせてみたいのです」

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「ほかのことでもおりない。明日はわれらの初陣ういじんじゃほどに、なんぞはなばなしい手柄をしてみたい。ついてはお身さまの猩々緋と唐冠の兜をしてたもらぬか。あの服折と兜とを着て、敵の眼をおどろかしてみとうござる」

「ハハハハ、たわいない頼みじゃな」

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「ハハハハ念もないことじゃ」

新兵衛は声を上げて笑った。

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新兵衛は高らかに笑った。

新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名心を気持ちよく受け入れることができた。

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新兵衛は、相手の子供らしい無邪気な功名心をこころよく受け入れることができた。

「ただし一つ言っておく。あの陣羽織や兜は、言ってみれば中村新兵衛の『形』じゃ。そなたがあれらを身に着ける以上は、わしと同じくらいの度胸を持たなければ、とても務まらんぞ」

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「が、申しておく、あの服折や兜は、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえは、われらほどの肝魂きもたまを持たいではかなわぬことぞ」

そう言いながら、新兵衛はまた声を上げて笑った。

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と言いながら、新兵衛はまた高らかに笑った。

その翌日、摂津の平野の一角で、松山勢は大和の筒井順慶の軍勢と激しく戦い合った。

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そのあくる日、摂津平野の一角で、松山勢は、大和の筒井順慶の兵としのぎをけずった。

戦いが始まる前、いつものように猩々緋の武者が唐冠の兜を朝日に輝かせながら、敵勢を横目に見て大きく馬を乗り回したかと思うと、馬の頭を敵のほうへ向け直し、一気に敵陣へ乗り込んだ。

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戦いが始まる前いつものように猩々緋の武者が唐冠の兜を朝日に輝かしながら、敵勢を尻目にかけて、大きく輪乗りをしたかと思うと、こまの頭を立てなおして、一気に敵陣に乗り入った。

吹き飛ばされるように敵陣の一角が乱れたところへ、猩々緋の武者は槍をつけたかと思うと、あっという間に三、四人の兵を突き倒して、またゆったりと味方の陣へ引き返した。

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吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを、猩々緋の武者は鎗をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を、突き伏せて、またゆうゆうと味方の陣へ引き返した。

その日に限って黒皮縅の鎧を着け、南蛮鉄の兜をかぶっていた中村新兵衛は、満足げな微笑みを浮かべながら、猩々緋の武者の華々しい戦いぶりを眺めていた。

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その日に限って、黒皮おどしよろいを着て、南蛮鉄の兜をかぶっていた中村新兵衛は、会心の微笑を含みながら、猩々緋の武者のはなばなしい武者ぶりをながめていた。

そして、自分の「形」だけでもこれほどの力があるということに、かなり大きな誇りを感じていた。

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そして自分の形だけすらこれほどの力をもっているということに、かなり大きい誇りを感じていた。

彼は二番槍は自分で合わそうと思い、馬を乗り出して、一直線に敵陣へ突っ込んだ。

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彼は二番鎗は、自分が合わそうと思ったので、駒を乗り出すと、一文字に敵陣に殺到した。

猩々緋の武者の前では戦わずして浮き足立った敵陣が、中村新兵衛の前では、まったく動じなかった。

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猩々緋の武者の前には、戦わずして浮き足立った敵陣が、中村新兵衛の前には、ビクともしなかった。

それどころか敵兵たちは、猩々緋の「槍中村」に

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そのうえに彼らは猩々緋の『鎗中村』

散々に突き崩された恨みを、この黒皮縅の武者に晴らそうと、猛り立っていた。

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に突きみだされたうらみを、この黒皮縅の武者の上に復讐せんとして、たけり立っていた。

新兵衛は、いつもと勝手が違うと気づいた。

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新兵衛は、いつもとは、勝手が違っていることに気がついた。

普段は、虎を前にした羊のような怯えが敵にあった。

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いつもは虎に向かっている羊のような怖気おじけが、敵にあった。

敵がうろたえてパニックになっているところを突き倒すのは、なんの苦労もなかった。

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彼らは狼狽うろたえ血迷うところを突き伏せるのに、なんの雑作もなかった。

ところが今日の敵は、本気で戦うときのように、完全に気合いが入っていた。

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今日は、彼らは戦いをする時のように、勇み立っていた。

どの兵もどの兵も、新兵衛に対して力を出し惜しみせず全力でぶつかってきた。

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どの雑兵もどの雑兵も十二分の力を新兵衛に対し発揮した。

二、三人を突き倒すことさえ簡単ではなかった。

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二、三人突き伏せることさえ容易ではなかった。

敵の槍の穂先が、何度も体をかすった。

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敵の鎗の鋒先が、ともすれば身をかすった。

新兵衛は必死の力を振り絞った。

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新兵衛は必死の力を振るった。

普段の二倍の力さえ振り絞った。

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平素の二倍もの力さえ振るった。

それでも彼は、何度も突き負けそうになった。

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が、彼はともすれば突き負けそうになった。

気軽に兜と猩々緋を貸してしまったことを後悔するような気持ちが頭をよぎった、まさにそのときだった。

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手軽に兜や猩々緋をしたことを、後悔するような感じが頭の中をかすめたときであった。

敵が突き出した槍が、鎧の縅の隙間をついて、彼の脇腹を貫いていた。

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敵の突き出した鎗が、縅の裏をかいて彼の脾腹ひばらを貫いていた。