オツベルと象 現代語訳
宮沢賢治(みやざわけんじ)・1989年
AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23)
……ある牛飼いが語ること
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……ある牛飼いがものがたる
第一日曜日
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第一日曜
オツベルといったら、たいしたものだ。
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オツベルときたら大したもんだ。
稲こき機械を六台も据えつけて、のんのんのんのんのんのんと、ものすごい音を立ててやっている。
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稲扱器械の六台も据えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。
十六人の百姓たちが、顔を真っ赤にして足で踏んで機械を回し、山のように積まれた稲を端から端まで次々にこいていく。
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十六人の百姓どもが、顔をまるっきりまっ赤にして足で踏んで器械をまわし、小山のように積まれた稲を片っぱしから扱いて行く。
わらはどんどん後ろのほうへ投げられて、また新しい山になる。
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藁はどんどんうしろの方へ投げられて、また新らしい山になる。
あたりは、もみやわらから舞いあがった細かなほこりで、妙にぼんやり黄色っぽくなり、まるで砂漠のけむりみたいだ。
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そこらは、籾や藁から発ったこまかな塵で、変にぼうっと黄いろになり、まるで沙漠のけむりのようだ。
その薄暗い仕事場を、オツベルは大きな琥珀のパイプをくわえ、吸いがらをわらに落とさないよう目を細くして気をつけながら、両手を背中に組み合わせて、ぶらぶら行ったり来たりしている。
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そのうすくらい仕事場を、オツベルは、大きな琥珀のパイプをくわえ、吹殻を藁に落さないよう、眼を細くして気をつけながら、両手を背中に組みあわせて、ぶらぶら往ったり来たりする。
小屋はかなり頑丈で、学校くらいの広さがあるのだが、なんせ新式稲こき機械が六台もそろって回っているから、のんのんのんのん揺れるのだ。
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小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式稲扱器械が、六台もそろってまわってるから、のんのんのんのんふるうのだ。
中に入るとそのせいで、すっかりお腹がすくほどだ。
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中にはいるとそのために、すっかり腹が空くほどだ。
そして実際オツベルは、それでうまくお腹をすかせて、昼飯どきには六センチくらいのビフテキだの、ぞうきんほどある大きなオムレツの、ほくほくしたのを食べるのだ。
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そしてじっさいオツベルは、そいつで上手に腹をへらし、ひるめしどきには、六寸ぐらいのビフテキだの、雑巾ほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ。
とにかく、そうしてのんのんのんのんやっていた。
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とにかく、そうして、のんのんのんのんやっていた。
すると、そこへどういうわけか、あの白い象がやってきた。
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そしたらそこへどういうわけか、その、白象がやって来た。
白い象だよ、ペンキを塗ったんじゃないよ。
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白い象だぜ、ペンキを塗ったのでないぜ。
どういうわけで来たかって?
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どういうわけで来たかって?
それは象のことだから、たぶんぶらっと森を出て、ただなんとなく来たのだろう。
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そいつは象のことだから、たぶんぶらっと森を出て、ただなにとなく来たのだろう。
それが小屋の入り口に、ゆっくり顔を出したとき、百姓たちはぎょっとした。
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そいつが小屋の入口に、ゆっくり顔を出したとき、百姓どもはぎょっとした。
なぜぎょっとした?
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なぜぎょっとした?
よく聞くね、何をしだすかわからないじゃないか。
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よくきくねえ、何をしだすか知れないじゃないか。
かかわり合っては大変だから、どいつもみんな、一生懸命、自分の稲をこいていた。
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かかり合っては大へんだから、どいつもみな、いっしょうけんめい、じぶんの稲を扱いていた。
ところがそのときオツベルは、並んだ機械の後ろのほうで、ポケットに手を入れながら、ちらっと鋭く象を見た。
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ところがそのときオツベルは、ならんだ器械のうしろの方で、ポケットに手を入れながら、ちらっと鋭く象を見た。
それからすばやく下を向き、何でもないというふうで、今までどおり行ったり来たりしていた。
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それからすばやく下を向き、何でもないというふうで、いままでどおり往ったり来たりしていたもんだ。
すると今度は白い象が、片足を床に上げたのだ。
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するとこんどは白象が、片脚床にあげたのだ。
百姓たちはぎょっとした。
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百姓どもはぎょっとした。
それでも仕事が忙しいし、かかわり合ってはひどいから、そちらを見ずに、やっぱり稲をこいていた。
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それでも仕事が忙しいし、かかり合ってはひどいから、そっちを見ずに、やっぱり稲を扱いていた。
オツベルは奥の薄暗いところで両手をポケットから出して、もう一度ちらっと象を見た。
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オツベルは奥のうすくらいところで両手をポケットから出して、も一度ちらっと象を見た。
それからいかにも退屈そうに、わざと大きなあくびをして、両手を頭の後ろに組んで、行ったり来たりしていた。
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それからいかにも退屈そうに、わざと大きなあくびをして、両手を頭のうしろに組んで、行ったり来たりやっていた。
ところが象が威勢よく、前足を二つ突き出して、小屋に上がって来ようとする。
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ところが象が威勢よく、前肢二つつきだして、小屋にあがって来ようとする。
百姓たちはぎくっとし、オツベルも少しぎょっとして、大きな琥珀のパイプから、ふっとけむりを吐き出した。
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百姓どもはぎくっとし、オツベルもすこしぎょっとして、大きな琥珀のパイプから、ふっとけむりをはきだした。
それでもやっぱり知らないふりで、ゆっくりそのあたりを歩いていた。
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それでもやっぱりしらないふうで、ゆっくりそこらをあるいていた。
そしたらとうとう、象がのこのこ上がってきた。
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そしたらとうとう、象がのこのこ上って来た。
そして機械の前のところを、のんきに歩きはじめたのだ。
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そして器械の前のとこを、呑気にあるきはじめたのだ。
ところがなんせ、機械はひどく回っていて、もみは夕立かあられのように、パチパチと象に当たるのだ。
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ところが何せ、器械はひどく廻っていて、籾は夕立か霰のように、パチパチ象にあたるのだ。
象はいかにもうるさそうに、小さなその目を細めていたが、よく見ると、たしかに少し笑っていた。
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象はいかにもうるさいらしく、小さなその眼を細めていたが、またよく見ると、たしかに少しわらっていた。
オツベルはやっと覚悟を決めて、稲こき機械の前に出て、象に話をしようとしたが、そのとき象が、とてもきれいな、ウグイスみたいないい声で、こんなことを言ったのだ。
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オツベルはやっと覚悟をきめて、稲扱器械の前に出て、象に話をしようとしたが、そのとき象が、とてもきれいな、鶯みたいないい声で、こんな文句を云ったのだ。
「ああ、だめだ。あんまりせわしくて、砂が歯に当たる。」
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「ああ、だめだ。あんまりせわしく、砂がわたしの歯にあたる。」
実際もみは、パチパチパチパチ歯に当たり、また真っ白な頭や首にぶつかる。
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まったく籾は、パチパチパチパチ歯にあたり、またまっ白な頭や首にぶっつかる。
さあ、オツベルは命がけだ。
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さあ、オツベルは命懸けだ。
パイプを右手に持ち直し、度胸を据えてこう言った。
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パイプを右手にもち直し、度胸を据えて斯う云った。
「どうだい、ここは面白いかい。」
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「どうだい、此処は面白いかい。」
「面白いねえ。」
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「面白いねえ。」
象が体を斜めにして、目を細くして返事した。
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象がからだを斜めにして、眼を細くして返事した。
「ずっとこっちにいたらどうだい。」
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「ずうっとこっちに居たらどうだい。」
百姓たちははっとして、息を殺して象を見た。
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百姓どもははっとして、息を殺して象を見た。
オツベルは言ってしまってから、にわかにがたがた震えだす。
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オツベルは云ってしまってから、にわかにがたがた顫え出す。
ところが象はけろりとして
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ところが象はけろりとして
「いてもいいよ。」
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「居てもいいよ。」
と答えたのだ。
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と答えたもんだ。
「そうか。それではそうしよう。そういうことにしようじゃないか。」
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「そうか。それではそうしよう。そういうことにしようじゃないか。」
オツベルが顔をくしゃくしゃにして、真っ赤になって喜びながらそう言った。
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オツベルが顔をくしゃくしゃにして、まっ赤になって悦びながらそう云った。
どうだ、そうしてこの象は、もうオツベルの財産だ。
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どうだ、そうしてこの象は、もうオツベルの財産だ。
今に見ていろ、オツベルは、あの白い象を、働かせるか、サーカス団に売り飛ばすか、どっちにしても一万円以上もうけるぞ。
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いまに見たまえ、オツベルは、あの白象を、はたらかせるか、サーカス団に売りとばすか、どっちにしても万円以上もうけるぜ。
第二日曜日
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第二日曜
オツベルといったら、たいしたものだ。
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オツベルときたら大したもんだ。
それに、この前稲こき小屋で、うまく自分のものにした、象も実際たいしたものだ。
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それにこの前稲扱小屋で、うまく自分のものにした、象もじっさい大したもんだ。
力も二十馬力もある。
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力も二十馬力もある。
まず見かけが真っ白で、牙は全体きれいな象牙でできている。
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第一みかけがまっ白で、牙はぜんたいきれいな象牙でできている。
皮も全体、立派で丈夫な象の皮なのだ。
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皮も全体、立派で丈夫な象皮なのだ。
そしてずいぶん働くものだ。
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そしてずいぶんはたらくもんだ。
けれどもそんなに稼ぐのも、やっぱり主人がえらいからだ。
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けれどもそんなに稼ぐのも、やっぱり主人が偉いのだ。
「おい、お前は時計はいらないか。」
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「おい、お前は時計は要らないか。」
丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめてこう聞いた。
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丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯う訊いた。
「ぼくは時計はいらないよ。」
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「ぼくは時計は要らないよ。」
象が笑って返事した。
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象がわらって返事した。
「まあ持ってみろ、いいもんだ。」
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「まあ持って見ろ、いいもんだ。」
こう言いながらオツベルは、ブリキで作った大きな時計を、象の首からぶら下げた。
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斯う言いながらオツベルは、ブリキでこさえた大きな時計を、象の首からぶらさげた。
「なかなかいいね。」
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「なかなかいいね。」
象も言う。
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象も云う。
「鎖もなくちゃだめだろう。」
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「鎖もなくちゃだめだろう。」
オツベルといったら、百キロもある鎖をさ、その前足につけた。
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オツベルときたら、百キロもある鎖をさ、その前肢にくっつけた。
「うん、なかなか鎖はいいね。」
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「うん、なかなか鎖はいいね。」
三歩歩いて象が言う。
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三あし歩いて象がいう。
「靴をはいたらどうだろう。」
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「靴をはいたらどうだろう。」
「ぼくは靴なんてはかないよ。」
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「ぼくは靴などはかないよ。」
「まあはいてみろ、いいもんだ。」
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「まあはいてみろ、いいもんだ。」
オツベルは顔をしかめながら、赤い張り子の大きな靴を、象の後ろのかかとにはめた。
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オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、象のうしろのかかとにはめた。
「なかなかいいね。」
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「なかなかいいね。」
象も言う。
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象も云う。
「靴に飾りをつけなくちゃ。」
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「靴に飾りをつけなくちゃ。」
オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上からはめ込んだ。
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オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、穿め込んだ。
「うん、なかなかいいね。」
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「うん、なかなかいいね。」
象は二歩歩いてみて、いかにもうれしそうにそう言った。
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象は二あし歩いてみて、さもうれしそうにそう云った。
次の日、ブリキの大きな時計と、粗末な紙の靴はやぶれ、象は鎖と分銅だけで、大よろこびで歩いていた。
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次の日、ブリキの大きな時計と、やくざな紙の靴とはやぶけ、象は鎖と分銅だけで、大よろこびであるいて居った。
「済まないが税金も高いから、今日は少し、川から水を汲んでくれ。」
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「済まないが税金も高いから、今日はすこうし、川から水を汲んでくれ。」
オツベルは両手を後ろで組んで、顔をしかめて象に言う。
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オツベルは両手をうしろで組んで、顔をしかめて象に云う。
「ああ、ぼく水を汲んでこよう。もう何杯でも汲んでやるよ。」
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「ああ、ぼく水を汲んで来よう。もう何ばいでも汲んでやるよ。」
象は目を細くして喜んで、その昼過ぎに五十杯だけ、川から水を汲んできた。
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象は眼を細くしてよろこんで、そのひるすぎに五十だけ、川から水を汲んで来た。
そして菜っ葉の畑にかけた。
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そして菜っ葉の畑にかけた。
夕方、象は象小屋にいて、十把のわらを食べながら、西の三日月を見て、
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夕方象は小屋に居て、十把の藁をたべながら、西の三日の月を見て、
「ああ、稼ぐのは愉快だねえ、さっぱりするねえ」
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「ああ、稼ぐのは愉快だねえ、さっぱりするねえ」
と言っていた。
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と云っていた。
「済まないが税金がまた上がる。今日は少し森から、たきぎを運んでくれ」
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「済まないが税金がまたあがる。今日は少うし森から、たきぎを運んでくれ」
オツベルは房のついた赤い帽子をかぶり、両手をポケットに突っ込んで、次の日象にそう言った。
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オツベルは房のついた赤い帽子をかぶり、両手をかくしにつっ込んで、次の日象にそう言った。
「ああ、ぼくたきぎを持ってこよう。いい天気だねえ。ぼくはぜんたい森へ行くのが大好きなんだ」
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「ああ、ぼくたきぎを持って来よう。いい天気だねえ。ぼくはぜんたい森へ行くのは大すきなんだ」
象は笑ってこう言った。
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象はわらってこう言った。
オツベルは少しぎょっとして、パイプを手からあやうく落としそうになったが、もうあのときは、象がいかにも愉快なふうで、ゆっくり歩きだしたので、また安心してパイプをくわえ、小さな咳を一つして、百姓たちの仕事のほうを見に行った。
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オツベルは少しぎょっとして、パイプを手からあぶなく落としそうにしたがもうあのときは、象がいかにも愉快なふうで、ゆっくりあるきだしたので、また安心してパイプをくわえ、小さな咳を一つして、百姓どもの仕事の方を見に行った。
その昼過ぎの半日に、象は九百把たきぎを運び、目を細くして喜んだ。
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そのひるすぎの半日に、象は九百把たきぎを運び、眼を細くしてよろこんだ。
晩方、象は象小屋にいて、八把のわらを食べながら、西の四日月を見て
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晩方象は小屋に居て、八把の藁をたべながら、西の四日の月を見て
「ああ、せいせいした。サンタマリア」
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「ああ、せいせいした。サンタマリア」
とこうひとりごとを言ったそうだ。
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と斯うひとりごとしたそうだ。
その次の日だ、
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その次の日だ、
「済まないが、税金が五倍になった、今日は少し鍛冶場へ行って、炭火を吹いてくれないか」
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「済まないが、税金が五倍になった、今日は少うし鍛冶場へ行って、炭火を吹いてくれないか」
「ああ、吹いてやろう。本気でやったら、ぼく、もう、息で、石も吹き飛ばせるよ」
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「ああ、吹いてやろう。本気でやったら、ぼく、もう、息で、石もなげとばせるよ」
オツベルはまたどきっとしたが、気を落ち着けて笑っていた。
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オツベルはまたどきっとしたが、気を落ち付けてわらっていた。
象はのそのそ鍛冶場へ行って、べたんと足を折って座り、ふいごの代わりに半日炭を吹いたのだ。
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象はのそのそ鍛冶場へ行って、べたんと肢を折って座り、ふいごの代りに半日炭を吹いたのだ。
その晩、象は象小屋で、七把のわらを食べながら、空の五日月を見て
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その晩、象は象小屋で、七把の藁をたべながら、空の五日の月を見て
「ああ、疲れたな、うれしいな、サンタマリア」
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「ああ、つかれたな、うれしいな、サンタマリア」
とこう言った。
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と斯う言った。
どうだ、そうして次の日から、象は朝から稼ぐのだ。
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どうだ、そうして次の日から、象は朝からかせぐのだ。
わらも昨日はたった五把だ。
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藁も昨日はただ五把だ。
よくまあ、五把のわらなどで、あんな力が出るものだ。
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よくまあ、五把の藁などで、あんな力がでるもんだ。
実際象は経済的だよ。
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じっさい象はけいざいだよ。
それというのもオツベルが、頭がよくてえらいからだ。
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それというのもオツベルが、頭がよくてえらいためだ。
オツベルといったら、たいしたものさ。
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オツベルときたら大したもんさ。
第五日曜日
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第五日曜
オツベルかい、そのオツベルは、おれも言おうとしていたんだが、いなくなったよ。
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オツベルかね、そのオツベルは、おれも云おうとしてたんだが、居なくなったよ。
まあ落ち着いて聞いてくれ。
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まあ落ちついてききたまえ。
前に話したあの象を、オツベルは少しひどくし過ぎた。
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前にはなしたあの象を、オツベルはすこしひどくし過ぎた。
やり方がだんだんひどくなったから、象がなかなか笑わなくなった。
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しかたがだんだんひどくなったから、象がなかなか笑わなくなった。
ときには赤い竜のような目をして、じっとこんなふうにオツベルを見下ろすようになってきた。
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時には赤い竜の眼をして、じっとこんなにオツベルを見おろすようになってきた。
ある晩、象は象小屋で、三把のわらを食べながら、十日の月を見上げて、
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ある晩象は象小屋で、三把の藁をたべながら、十日の月を仰ぎ見て、
「苦しいです。サンタマリア。」
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「苦しいです。サンタマリア。」
と言ったということだ。
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と云ったということだ。
これを聞いたオツベルは、ことごとく象につらくした。
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こいつを聞いたオツベルは、ことごと象につらくした。
ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、わらも食べずに、十一日の月を見て、
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ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに、十一日の月を見て、
「もう、さようなら、サンタマリア。」
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「もう、さようなら、サンタマリア。」
とこう言った。
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と斯う言った。
「おや、何だって? さよならだ?」
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「おや、何だって? さよならだ?」
月が急に象に聞く。
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月が俄かに象に訊く。
「ええ、さようならです。サンタマリア。」
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「ええ、さよならです。サンタマリア。」
「何だい、体ばかり大きくて、まったく根性のないやつだなあ。仲間に手紙を書いたらいいよ。」
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「何だい、なりばかり大きくて、からっきし意気地のないやつだなあ。仲間へ手紙を書いたらいいや。」
月が笑ってこう言った。
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月がわらって斯う云った。
「筆も紙もありませんよ。」
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「お筆も紙もありませんよう。」
象は細くてきれいな声で、しくしくしくしく泣き出した。
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象は細ういきれいな声で、しくしくしくしく泣き出した。
「ほら、これでしょう。」
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「そら、これでしょう。」
すぐ目の前で、かわいい子どもの声がした。
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すぐ眼の前で、可愛い子どもの声がした。
象が頭を上げて見ると、赤い着物の童子が立って、硯と紙を捧げていた。
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象が頭を上げて見ると、赤い着物の童子が立って、硯と紙を捧げていた。
象はさっそく手紙を書いた。
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象は早速手紙を書いた。
「ぼくはずいぶんひどい目にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。」
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「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出て来て助けてくれ。」
童子はすぐに手紙を持って、林のほうへ歩いて行った。
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童子はすぐに手紙をもって、林の方へあるいて行った。
赤い着物の童子が、そうして山に着いたのは、ちょうど昼飯ごろだった。
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赤衣の童子が、そうして山に着いたのは、ちょうどひるめしごろだった。
このとき山の象たちは、沙羅樹の下の暗がりで、囲碁などをやっていたのだが、額を集めてこれを読んだ。
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このとき山の象どもは、沙羅樹の下のくらがりで、碁などをやっていたのだが、額をあつめてこれを見た。
「ぼくはずいぶんひどい目にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。」
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「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。」
象は一斉に立ち上がり、真っ黒になって吠えだした。
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象は一せいに立ちあがり、まっ黒になって吠えだした。
「オツベルをやっつけよう」
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「オツベルをやっつけよう」
議長の象が高く叫ぶと、
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議長の象が高く叫ぶと、
「おう、出かけよう。グララアガア、グララアガア。」
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「おう、でかけよう。グララアガア、グララアガア。」
みんなが一度に呼応する。
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みんながいちどに呼応する。
さあ、もうみんな、嵐のように林の中を鳴きぬけて、グララアガア、グララアガア、野原のほうへとんで行く。
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さあ、もうみんな、嵐のように林の中をなきぬけて、グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。
どいつもみんな狂ったみたいだ。
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どいつもみんなきちがいだ。
小さな木などは根こそぎになり、藪や何かもめちゃめちゃだ。
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小さな木などは根こぎになり、藪や何かもめちゃめちゃだ。
グワアグワアグワアグワア、花火みたいに野原の中へ飛び出した。
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グワア グワア グワア グワア、花火みたいに野原の中へ飛び出した。
それから、ひたすら走って走って、とうとう向こうの青くかすんだ野原のはてに、オツベルの屋敷の黄色い屋根を見つけると、象は一斉に噴火した。
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それから、何の、走って、走って、とうとう向うの青くかすんだ野原のはてに、オツベルの邸の黄いろな屋根を見附けると、象はいちどに噴火した。
グララアガア、グララアガア。
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グララアガア、グララアガア。
そのときはちょうど一時半で、オツベルは革のベッドの上で昼寝の真っ最中で、カラスの夢を見ていた。
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その時はちょうど一時半、オツベルは皮の寝台の上でひるねのさかりで、烏の夢を見ていたもんだ。
あまりに大きな音なので、オツベルの家の百姓たちが、門から少し外に出て、手をかざして向こうを見た。
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あまり大きな音なので、オツベルの家の百姓どもが、門から少し外へ出て、小手をかざして向うを見た。
林のような象の群れだろう。
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林のような象だろう。
汽車より早くやってくる。
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汽車より早くやってくる。
さあ、まるっきり血の気も失せて駆け込んで、
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さあ、まるっきり、血の気も失せてかけ込んで、
「旦那あ、象です。押し寄せてきました。旦那あ、象です。」
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「旦那あ、象です。押し寄せやした。旦那あ、象です。」
と声の限りに叫んだのだ。
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と声をかぎりに叫んだもんだ。
ところがオツベルはやっぱりえらい。
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ところがオツベルはやっぱりえらい。
目をぱっちり開けたときは、もう何もかもわかっていた。
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眼をぱっちりとあいたときは、もう何もかもわかっていた。
「おい、象のやつは小屋にいるのか。いる? いる? いるのか。よし、戸をしめろ。戸をしめるんだよ。早く象小屋の戸をしめるんだ。よし、早く丸太を持ってこい。閉じ込めちまえ、くそ、じたばたするな、丸太をそこへしばりつけろ。何ができるもんか。わざと力を減らしてあるんだ。よし、もう五六本持ってこい。さあ、大丈夫だ。大丈夫だとも。あわてるなったら。おい、みんな、今度は門だ。門をしめろ。かんぬきをかけろ。つっぱり。つっぱり。そうだ。おい、みんな心配するなったら。しっかりしろよ。」
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「おい、象のやつは小屋にいるのか。居る? 居る? 居るのか。よし、戸をしめろ。戸をしめるんだよ。早く象小屋の戸をしめるんだ。ようし、早く丸太を持って来い。とじこめちまえ、畜生めじたばたしやがるな、丸太をそこへしばりつけろ。何ができるもんか。わざと力を減らしてあるんだ。ようし、もう五六本持って来い。さあ、大丈夫だ。大丈夫だとも。あわてるなったら。おい、みんな、こんどは門だ。門をしめろ。かんぬきをかえ。つっぱり。つっぱり。そうだ。おい、みんな心配するなったら。しっかりしろよ。」
オツベルはもう準備ができて、ラッパみたいないい声で、百姓たちを励ました。
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オツベルはもう支度ができて、ラッパみたいないい声で、百姓どもをはげました。
ところがどうして、百姓たちは気が気じゃない。
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ところがどうして、百姓どもは気が気じゃない。
こんな主人の巻き添えなんぞ食いたくないから、みんなタオルやハンカチや、汚れたような白っぽいものを、ぐるぐる腕に巻きつける。
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こんな主人に巻き添いなんぞ食いたくないから、みんなタオルやはんけちや、よごれたような白いようなものを、ぐるぐる腕に巻きつける。
降参するしるしなのだ。
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降参をするしるしなのだ。
オツベルはいよいよやっきになって、そのあたりを駆け回る。
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オツベルはいよいよやっきとなって、そこらあたりをかけまわる。
オツベルの犬も気が立って、火がついたように吠えながら、屋敷の中を走り回る。
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オツベルの犬も気が立って、火のつくように吠えながら、やしきの中をはせまわる。
間もなく地面はぐらぐらと揺れ、あたりはばしゃばしゃ暗くなり、象は屋敷を取り巻いた。
原文を見る
間もなく地面はぐらぐらとゆられ、そこらはばしゃばしゃくらくなり、象はやしきをとりまいた。
グララアガア、グララアガア、その恐ろしいさわぎの中から、
原文を見る
グララアガア、グララアガア、その恐ろしいさわぎの中から、
「今助けるから安心しろよ。」
原文を見る
「今助けるから安心しろよ。」
やさしい声も聞こえてくる。
原文を見る
やさしい声もきこえてくる。
「ありがとう。よく来てくれて、ほんとに僕はうれしいよ。」
原文を見る
「ありがとう。よく来てくれて、ほんとに僕はうれしいよ。」
象小屋からも声がする。
原文を見る
象小屋からも声がする。
さあ、そうすると、まわりの象は、一層ひどく、グララアガア、グララアガア、塀のまわりをぐるぐる走っているらしく、何度も中から、怒ってふり回す鼻も見える。
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さあ、そうすると、まわりの象は、一そうひどく、グララアガア、グララアガア、塀のまわりをぐるぐる走っているらしく、度々中から、怒ってふりまわす鼻も見える。
けれども塀はセメントで、中には鉄も入っているから、なかなか象も壊せない。
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けれども塀はセメントで、中には鉄も入っているから、なかなか象もこわせない。
塀の中にはオツベルが、たった一人で叫んでいる。
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塀の中にはオツベルが、たった一人で叫んでいる。
百姓たちは目もくらみ、そのあたりをうろうろするだけだ。
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百姓どもは眼もくらみ、そこらをうろうろするだけだ。
そのうち外の象たちは、仲間の体を台にして、いよいよ塀を乗り越えかかる。
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そのうち外の象どもは、仲間のからだを台にして、いよいよ塀を越しかかる。
だんだんにゅうと顔を出す。
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だんだんにゅうと顔を出す。
その皺くちゃで灰色の、大きな顔を見上げたとき、オツベルの犬は気絶した。
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その皺くちゃで灰いろの、大きな顔を見あげたとき、オツベルの犬は気絶した。
さあ、オツベルは撃ちだした。
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さあ、オツベルは射ちだした。
六連発のピストルさ。
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六連発のピストルさ。
ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ところが弾は通らない。
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ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ドーン、グララアガア、ところが弾丸は通らない。
牙に当たればはね返る。
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牙にあたればはねかえる。
一頭などはこう言った。
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一疋なぞは斯う言った。
「なかなかこいつはうるさいねえ。ぱちぱち顔に当たるんだ。」
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「なかなかこいつはうるさいねえ。ぱちぱち顔へあたるんだ。」
オツベルはいつかどこかで、こんな言葉を聞いたことがあるようだと思いながら、ケースを帯から詰め替えた。
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オツベルはいつかどこかで、こんな文句をきいたようだと思いながら、ケースを帯からつめかえた。
そのうち、象の片足が、塀からこっちへはみ出した。
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そのうち、象の片脚が、塀からこっちへはみ出した。
それからもう一つはみ出した。
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それからも一つはみ出した。
五頭の象が一度に、塀からどっと落ちてきた。
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五匹の象が一ぺんに、塀からどっと落ちて来た。
オツベルはケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに潰れていた。
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オツベルはケースを握ったまま、もうくしゃくしゃに潰れていた。
早くも門が開いていて、グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。
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早くも門があいていて、グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。
「牢はどこだ。」
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「牢はどこだ。」
みんなは小屋に押し寄せる。
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みんなは小屋に押し寄せる。
丸太なんかは、マッチのようにへし折られ、あの白い象はずいぶん痩せて小屋を出た。
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丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん瘠せて小屋を出た。
「まあ、よかったね、痩せたねえ。」
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「まあ、よかったねやせたねえ。」
みんなは静かにそばに寄り、鎖と分銅をはずしてやった。
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みんなはしずかにそばにより、鎖と銅をはずしてやった。
「ああ、ありがとう。ほんとに僕は助かったよ。」
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「ああ、ありがとう。ほんとにぼくは助かったよ。」
白い象はさびしく笑ってそう言った。
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白象はさびしくわらってそう云った。
おや〔一字不明〕、川に入っちゃいけないったら。
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おや〔一字不明〕、川へはいっちゃいけないったら。