どんぐりと山猫 現代語訳
宮沢賢治(みやざわけんじ)・1990年
AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23)
変なはがきが、ある土曜日の夕方、一郎の家に届きました。
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おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。
かねた一郎さま 九月十九日
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かねた一郎さま 九月十九日
あなたはお元気のようで、結構です。
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あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
明日、面倒な裁判をしますので、来て
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あした、めんどなさいばんしますから、おいで
ください。
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んなさい。
飛び道具は持ってこないでください。
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とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝
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山ねこ 拝
こんな内容です。
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こんなのです。
字はひどく下手で、墨もかすれていて指につくくらいでした。
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字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらいでした。
それでも一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。
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けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。
はがきをそっと学校のかばんにしまって、家中を飛んだり跳ねたりしました。
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はがきをそっと学校のかばんにしまって、うちじゅうとんだりはねたりしました。
布団にもぐってからも、山猫のにゃあという顔や、面倒だという裁判の様子などを想像して、なかなか眠れませんでした。
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ね床にもぐってからも、山猫のにゃあとした顔や、そのめんどうだという裁判のけしきなどを考えて、おそくまでねむりませんでした。
でも、一郎が目を覚ましたときには、もうすっかり明るくなっていました。
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けれども、一郎が眼をさましたときは、もうすっかり明るくなっていました。
外に出てみると、周りの山は、みんなたった今できたばかりのようにみずみずしく盛り上がって、真っ青な空の下に並んでいました。
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おもてにでてみると、まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、まっ青なそらのしたにならんでいました。
一郎は急いでご飯を食べて、一人で谷川に沿った細い道を、上の方へ上って行きました。
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一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿ったこみちを、かみの方へのぼって行きました。
澄んだ風がざあっと吹くと、栗の木はばらばらと実を落としました。
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すきとおった風がざあっと吹くと、栗の木はばらばらと実をおとしました。
一郎は栗の木を見上げて、
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一郎は栗の木をみあげて、
「栗の木、栗の木、山猫がここを通らなかったかい。」
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「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」
と聞きました。
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とききました。
栗の木はちょっと静かになって、
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栗の木はちょっとしずかになって、
「山猫なら、今朝早く、馬車で東の方へ飛んで行きましたよ。」
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「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」
と答えました。
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と答えました。
「東ならぼくが行く方向だな、おかしいな、とにかくもっと行ってみよう。栗の木、ありがとう。」
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「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもっといってみよう。栗の木ありがとう。」
栗の木は黙ってまた実をばらばらと落としました。
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栗の木はだまってまた実をばらばらとおとしました。
一郎が少し行くと、そこはもう笛ふきの滝でした。
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一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。
笛ふきの滝というのは、真っ白な岩の崖の中ほどに小さな穴が開いていて、そこから水が笛のように鳴って飛び出し、すぐ滝になってごうごう谷に落ちているのをいうのでした。
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笛ふきの滝というのは、まっ白な岩の崖のなかほどに、小さな穴があいていて、そこから水が笛のように鳴って飛び出し、すぐ滝になって、ごうごう谷におちているのをいうのでした。
一郎は滝に向かって叫びました。
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一郎は滝に向いて叫びました。
「おいおい、笛ふき、山猫がここを通らなかったかい。」
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「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかったかい。」
滝がぴーぴーと答えました。
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滝がぴーぴー答えました。
「山猫は、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」
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「やまねこは、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」
「おかしいな、西ならぼくの家の方だ。でも、まあもう少し行ってみよう。笛ふき、ありがとう。」
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「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行ってみよう。ふえふき、ありがとう。」
滝はまたもとのように笛を吹き続けました。
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滝はまたもとのように笛を吹きつづけました。
一郎がまた少し行くと、一本のぶなの木の下に、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。
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一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやっていました。
一郎は体を屈めて、
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一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、山猫が、ここを通らなかったかい。」
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「おい、きのこ、やまねこが、ここを通らなかったかい。」
と聞きました。
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とききました。
するときのこは
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するときのこは
「山猫なら、今朝早く、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」
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「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」
と答えました。
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とこたえました。
一郎は首をひねりました。
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一郎は首をひねりました。
「南ならあっちの山の中だ。おかしいな。まあもう少し行ってみよう。きのこ、ありがとう。」
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「みなみならあっちの山のなかだ。おかしいな。まあもすこし行ってみよう。きのこ、ありがとう。」
きのこはみんないそがしそうに、どってこどってこと、あの変な楽隊を続けました。
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きのこはみんないそがしそうに、どってこどってこと、あのへんな楽隊をつづけました。
一郎はまた少し行きました。
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一郎はまたすこし行きました。
すると一本のくるみの木の梢を、リスがぴょんと飛んでいました。
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すると一本のくるみの木の梢を、栗鼠がぴょんととんでいました。
一郎はすぐ手招きしてそれを止めて、
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一郎はすぐ手まねぎしてそれをとめて、
「おい、リス、山猫がここを通らなかったかい。」
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「おい、りす、やまねこがここを通らなかったかい。」
とたずねました。
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とたずねました。
するとリスは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見ながら答えました。
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するとりすは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見ながらこたえました。
「山猫なら、今朝まだ暗いうちに馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」
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「やまねこなら、けさまだくらいうちに馬車でみなみの方へ飛んで行きましたよ。」
「南へ行ったなんて、二か所でそんなことを言うのはおかしいなあ。でもまあもう少し行ってみよう。リス、ありがとう。」
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「みなみへ行ったなんて、二とこでそんなことを言うのはおかしいなあ。けれどもまあもすこし行ってみよう。りす、ありがとう。」
リスはもういませんでした。
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りすはもう居ませんでした。
ただくるみの一番上の枝が揺れ、隣のぶなの葉がちらっと光っただけでした。
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ただくるみのいちばん上の枝がゆれ、となりのぶなの葉がちらっとひかっただけでした。
一郎が少し行くと、谷川に沿った道は、もう細くなって消えてしまいました。
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一郎がすこし行きましたら、谷川にそったみちは、もう細くなって消えてしまいました。
そして谷川の南の、真っ黒な榧の木の森の方へ、新しい小さな道がついていました。
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そして谷川の南の、まっ黒な榧の木の森の方へ、あたらしいちいさなみちがついていました。
一郎はその道を上って行きました。
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一郎はそのみちをのぼって行きました。
榧の枝は真っ黒に重なり合って、青空は一切れも見えず、道はとても急な坂になりました。
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榧の枝はまっくろに重なりあって、青ぞらは一きれも見えず、みちは大へん急な坂になりました。
一郎が顔を真っ赤にして、汗をぽとぽと落としながら、その坂を上ると、急にぱっと明るくなって、目がちくっとしました。
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一郎が顔をまっかにして、汗をぽとぽとおとしながら、その坂をのぼりますと、にわかにぱっと明るくなって、眼がちくっとしました。
そこは美しい黄金色の草地で、草は風にざわざわ鳴り、周りは立派なオリーブ色の榧の木の森に囲まれていました。
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そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まわりは立派なオリーブいろのかやの木のもりでかこまれてありました。
その草地のまん中に、背の低い変な形の男が、膝を曲げて手に革鞭を持って、黙ってこちらを見ていたのです。
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その草地のまん中に、せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて手に革鞭をもって、だまってこっちをみていたのです。
一郎はだんだんそばへ行って、びっくりして立ち止まってしまいました。
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一郎はだんだんそばへ行って、びっくりして立ちどまってしまいました。
その男は片目で、見えない方の目は白くびくびく動き、上着のような半纏のような変なものを着て、とにかく足がひどく曲がって山羊のよう、特にその足先ときたら、ご飯をよそうへらの形だったのです。
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その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くびくびくうごき、上着のような半纒のようなへんなものを着て、だいいち足が、ひどくまがって山羊のよう、ことにそのあしさきときたら、ごはんをもるへらのかたちだったのです。
一郎は気味が悪かったのですが、なるべく落ち着いてたずねました。
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一郎は気味が悪かったのですが、なるべく落ちついてたずねました。
「あなたは山猫を知りませんか。」
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「あなたは山猫をしりませんか。」
するとその男は、横目で一郎の顔を見て、口を曲げてにやっと笑って言いました。
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するとその男は、横眼で一郎の顔を見て、口をまげてにやっとわらって言いました。
「山ねこさまはすぐここに戻っていらっしゃるよ。おまえは一郎さんだな。」
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「山ねこさまはいますぐに、ここに戻ってお出やるよ。おまえは一郎さんだな。」
一郎はぎょっとして、一歩後ろに下がって、
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一郎はぎょっとして、一あしうしろにさがって、
「え、ぼく一郎です。でも、どうしてそれを知ってますか。」
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「え、ぼく一郎です。けれども、どうしてそれを知ってますか。」
と言いました。
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と言いました。
するとその奇妙な男はいよいよにやにやしてしまいました。
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するとその奇体な男はいよいよにやにやしてしまいました。
「そんなら、はがき見ただろ。」
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「そんだら、はがき見だべ。」
「見ました。それで来たんです。」
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「見ました。それで来たんです。」
「あの文章は、ずいぶん下手だろ。」
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「あのぶんしょうは、ずいぶん下手だべ。」
と男は下を向いて悲しそうに言いました。
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と男は下をむいてかなしそうに言いました。
一郎は気の毒になって、
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一郎はきのどくになって、
「さあ、なかなか、文章が上手なようでしたよ。」
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「さあ、なかなか、ぶんしょうがうまいようでしたよ。」
と言うと、男は喜んで、息をはあはあして、耳のあたりまで真っ赤になり、着物の衿を広げて、風を体に入れながら、
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と言いますと、男はよろこんで、息をはあはあして、耳のあたりまでまっ赤になり、きもののえりをひろげて、風をからだに入れながら、
「あの字もなかなか上手か。」
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「あの字もなかなかうまいか。」
と聞きました。
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とききました。
一郎は思わず笑い出しながら、返事しました。
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一郎は、おもわず笑いだしながら、へんじしました。
「上手ですね。五年生だってあのくらいには書けないでしょう。」
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「うまいですね。五年生だってあのくらいには書けないでしょう。」
すると男は、急にまたいやな顔をしました。
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すると男は、急にまたいやな顔をしました。
「五年生っていうのは、尋常小学校の五年生だろ。」
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「五年生っていうのは、尋常五年生だべ。」
その声があんまり力なく、あわれに聞こえましたので、一郎はあわてて言いました。
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その声が、あんまり力なくあわれに聞えましたので、一郎はあわてて言いました。
「いいえ、大学の五年生ですよ。」
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「いいえ、大学校の五年生ですよ。」
すると、男はまた喜んで、まるで顔じゅうが口のようになって、にたにたにたにた笑って叫びました。
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すると、男はまたよろこんで、まるで、顔じゅう口のようにして、にたにたにたにた笑って叫びました。
「あのはがきはわしが書いたのだよ。」
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「あのはがきはわしが書いたのだよ。」
一郎はおかしいのをこらえて、
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一郎はおかしいのをこらえて、
「そもそもあなたは何者ですか。」
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「ぜんたいあなたはなにですか。」
とたずねると、男は急にまじめになって、
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とたずねますと、男は急にまじめになって、
「わしは山ねこさまの馬車別当だよ。」
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「わしは山ねこさまの馬車別当だよ。」
と言いました。
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と言いました。
そのとき、風がどうと吹いてきて、草は一面波打ち、別当は急にていねいなお辞儀をしました。
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そのとき、風がどうと吹いてきて、草はいちめん波だち、別当は、急にていねいなおじぎをしました。
一郎はおかしいと思って、振り返って見ると、そこに山猫が、黄色い陣羽織のようなものを着て、緑色の目をまん丸にして立っていました。
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一郎はおかしいとおもって、ふりかえって見ますと、そこに山猫が、黄いろな陣羽織のようなものを着て、緑いろの眼をまん円にして立っていました。
やっぱり山猫の耳は立って尖っているなと一郎が思ったら、山ねこはぴょこっとお辞儀をしました。
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やっぱり山猫の耳は、立って尖っているなと、一郎がおもいましたら、山ねこはぴょこっとおじぎをしました。
一郎もていねいに挨拶しました。
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一郎もていねいに挨拶しました。
「いや、こんにちは、昨日ははがきをありがとう。」
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「いや、こんにちは、きのうははがきをありがとう。」
山猫はひげをぴんと引っ張って、腹を突き出して言いました。
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山猫はひげをぴんとひっぱって、腹をつき出して言いました。
「こんにちは、よくいらっしゃいました。実はおとといから面倒なあらそいが起こって、裁判にちょっと困りましたので、あなたのお考えを聞かせていただきたいと思ったんです。まあ、ゆっくり休んでください。もうすぐどんぐりたちがやって来ますよ。まったく毎年この裁判には苦しみますね。」
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「こんにちは、よくいらっしゃいました。じつはおとといから、めんどうなあらそいがおこって、ちょっと裁判にこまりましたので、あなたのお考えを、うかがいたいとおもいましたのです。まあ、ゆっくり、おやすみください。じき、どんぐりどもがまいりましょう。どうもまい年、この裁判でくるしみます。」
山ねこは懐から巻きたばこの箱を出して、自分が一本くわえ、
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山ねこは、ふところから、巻煙草の箱を出して、じぶんが一本くわえ、
「いかがですか。」
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「いかがですか。」
と一郎に差し出しました。
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と一郎に出しました。
一郎はびっくりして、
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一郎はびっくりして、
「いいえ。」
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「いいえ。」
と言いましたら、山ねこはおおように笑って、
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と言いましたら、山ねこはおおようにわらって、
「ふふん、まだお若いから、」
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「ふふん、まだお若いから、」
と言いながら、マッチをしゅっと擦って、わざと顔をしかめて、青い煙をふうと吐きました。
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と言いながら、マッチをしゅっと擦って、わざと顔をしかめて、青いけむりをふうと吐きました。
山ねこの馬車別当は、気をつけの姿勢でしゃんと立っていましたが、いかにもたばこがほしいのを無理にこらえているらしく、涙をぼろぼろこぼしました。
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山ねこの馬車別当は、気を付けの姿勢で、しゃんと立っていましたが、いかにも、たばこのほしいのをむりにこらえているらしく、なみだをぼろぼろこぼしました。
そのとき、一郎は足元でパチパチと塩がはぜるような音を聞きました。
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そのとき、一郎は、足もとでパチパチ塩のはぜるような、音をききました。
びっくりして屈んで見ると、草の中に、あっちにもこっちにも、黄金色の丸いものがぴかぴか光っているのでした。
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びっくりして屈んで見ますと、草のなかに、あっちにもこっちにも、黄金いろの円いものが、ぴかぴかひかっているのでした。
よく見ると、みんなそれは赤いズボンをはいたどんぐりで、その数ときたら三百どころじゃないくらいでした。
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よくみると、みんなそれは赤いずぼんをはいたどんぐりで、もうその数ときたら、三百でも利かないようでした。
わあわあわあわあ、みんな何か言っているのです。
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わあわあわあわあ、みんななにか云っているのです。
「あ、来たな。アリのようにやってくる。おい、さあ、早くベルを鳴らせ。今日はそこが日当たりがいいから、そこの草を刈れ。」
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「あ、来たな。蟻のようにやってくる。おい、さあ、早くベルを鳴らせ。今日はそこが日当りがいいから、そこのとこの草を刈れ。」
山ねこは巻きたばこを投げ捨てて、大急ぎで馬車別当に言いつけました。
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やまねこは巻たばこを投げすてて、大いそぎで馬車別当にいいつけました。
馬車別当もたいへんあわてて、腰から大きな鎌を取り出して、ざっくざっくと、山ねこの前のところの草を刈りました。
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馬車別当もたいへんあわてて、腰から大きな鎌をとりだして、ざっくざっくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。
そこへ四方の草の中から、どんぐりたちがぎらぎら光って飛び出して、わあわあわあわあ言いました。
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そこへ四方の草のなかから、どんぐりどもが、ぎらぎらひかって、飛び出して、わあわあわあわあ言いました。
馬車別当が、今度は鈴をがらんがらんがらんがらんと振りました。
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馬車別当が、こんどは鈴をがらんがらんがらんがらんと振りました。
音は榧の森に、がらんがらんがらんがらんと響き、黄金のどんぐりたちは少し静かになりました。
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音はかやの森に、がらんがらんがらんがらんとひびき、黄金のどんぐりどもは、すこししずかになりました。
見ると山ねこは、もういつの間にか、黒い長いサテンの服を着て、もったいぶった様子でどんぐりたちの前に座っていました。
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見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子の服を着て、勿体らしく、どんぐりどもの前にすわっていました。
まるで奈良の大仏様に参拝するみんなの絵のようだと一郎は思いました。
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まるで奈良のだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のようだと一郎はおもいました。
別当が今度は、革鞭を二三回、ひゅうぱちっ、ひゅう、ぱちっと鳴らしました。
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別当がこんどは、革鞭を二三べん、ひゅうぱちっ、ひゅう、ぱちっと鳴らしました。
空が青く澄み渡り、どんぐりはぴかぴかしてとてもきれいでした。
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空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。
「裁判ももう今日で三日目だぞ、いい加減に仲直りをしたらどうだ。」
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「裁判ももう今日で三日目だぞ、いい加減になかなおりをしたらどうだ。」
山ねこが少し心配そうに、それでも無理に威張って言うと、どんぐりたちは口々に叫びました。
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山ねこが、すこし心配そうに、それでもむりに威張って言いますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、何といったって頭のとがっているのが一番えらいんです。そしてわたしが一番とがっています。」
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「いえいえ、だめです、なんといったって頭のとがってるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがっています。」
「いいえ、違います。丸いのがえらいのです。一番丸いのはわたしです。」
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「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです。」
「大きなことだよ。大きいのが一番えらいんだよ。わたしが一番大きいからわたしがえらいんだよ。」
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「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」
「そうじゃないよ。わたしの方がよほど大きいと、昨日も判事さんがおっしゃったじゃないか。」
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「そうでないよ。わたしのほうがよほど大きいと、きのうも判事さんがおっしゃったじゃないか。」
「だめだい、そんなこと。背の高いのだよ。背の高いことなんだよ。」
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「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」
「押しっこのえらい人だよ。押しっこをして決めるんだよ。」
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「押しっこのえらいひとだよ。押しっこをしてきめるんだよ。」
もうみんな、がやがやがやがや言って、何が何だか、まるで蜂の巣をつついたようで、わけがわからなくなりました。
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もうみんな、がやがやがやがや言って、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつっついたようで、わけがわからなくなりました。
そこで山ねこが叫びました。
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そこでやまねこが叫びました。
「やかましい。ここをどこだと思っているんだ。静まれ、静まれ。」
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「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」
別当が鞭をひゅうぱちっと鳴らしましたので、どんぐりたちはやっと静まりました。
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別当がむちをひゅうぱちっとならしましたのでどんぐりどもは、やっとしずまりました。
山ねこは、ぴんとひげをひねって言いました。
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やまねこは、ぴんとひげをひねって言いました。
「裁判ももう今日で三日目だぞ。いい加減に仲直りしたらどうだ。」
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「裁判ももうきょうで三日目だぞ。いい加減に仲なおりしたらどうだ。」
すると、もうどんぐりたちが口々に言いました。
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すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云いました。
「いえいえ、だめです。何といったって、頭のとがっているのが一番えらいのです。」
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「いえいえ、だめです。なんといったって、頭のとがっているのがいちばんえらいのです。」
「いいえ、違います。丸いのがえらいのです。」
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「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。」
「そうじゃないよ。大きなことだよ。」
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「そうでないよ。大きなことだよ。」
がやがやがやがや、もう何が何だかわからなくなりました。
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がやがやがやがや、もうなにがなんだかわからなくなりました。
山猫が叫びました。
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山猫が叫びました。
「黙れ、やかましい。ここをどこだと思っているんだ。静まれ静まれ。」
原文を見る
「だまれ、やかましい。ここをなんと心得る。しずまれしずまれ。」
別当が、鞭をひゅうぱちっと鳴らしました。
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別当が、むちをひゅうぱちっと鳴らしました。
山猫がひげをぴんとひねって言いました。
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山猫がひげをぴんとひねって言いました。
「裁判ももう今日で三日目だぞ。いい加減に仲直りをしたらどうだ。」
原文を見る
「裁判ももうきょうで三日目だぞ。いい加減になかなおりをしたらどうだ。」
「いえ、いえ、だめです。頭のとがったものが……。」
原文を見る
「いえ、いえ、だめです。あたまのとがったものが……。」
がやがやがやがや。
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がやがやがやがや。
山ねこが叫びました。
原文を見る
山ねこが叫びました。
「やかましい。ここをどこだと思っているんだ。静まれ、静まれ。」
原文を見る
「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」
別当が、鞭をひゅうぱちっと鳴らし、どんぐりはみんな静まりました。
原文を見る
別当が、むちをひゅうぱちっと鳴らし、どんぐりはみんなしずまりました。
山猫が一郎にそっと言いました。
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山猫が一郎にそっと申しました。
「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」
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「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」
一郎は笑って答えました。
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一郎はわらってこたえました。
「そんなら、こう言い渡したらいいでしょう。この中で一番ばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、一番えらいとね。ぼくお説教で聞いたんです。」
原文を見る
「そんなら、こう言いわたしたらいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」
山猫はなるほどというようにうなずいて、それからいかにも気取って、サテンの着物の胸元を開いて、黄色い陣羽織をちょっと出してどんぐりたちに言い渡しました。
原文を見る
山猫はなるほどというふうにうなずいて、それからいかにも気取って、繻子のきものの胸を開いて、黄いろの陣羽織をちょっと出してどんぐりどもに申しわたしました。
「よろしい。静かにしろ。言い渡しだ。この中で、一番えらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、まったくなっていなくて、頭のつぶれたようなやつが、一番えらいのだ。」
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「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」
どんぐりは、しいんとしてしまいました。
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どんぐりは、しいんとしてしまいました。
それはそれはしいんとして、固まってしまいました。
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それはそれはしいんとして、堅まってしまいました。
そこで山猫は、黒いサテンの服を脱いで、額の汗をぬぐいながら、一郎の手を取りました。
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そこで山猫は、黒い繻子の服をぬいで、額の汗をぬぐいながら、一郎の手をとりました。
別当も大喜びで、五六回、鞭をひゅうぱちっ、ひゅうぱちっ、ひゅうひゅうぱちっと鳴らしました。
原文を見る
別当も大よろこびで、五六ぺん、鞭をひゅうぱちっ、ひゅうぱちっ、ひゅうひゅうぱちっと鳴らしました。
山ねこが言いました。
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やまねこが言いました。
「どうもありがとうございました。これほどひどい裁判を、まるで一分半で片付けてくださいました。どうかこれからわたしの裁判所の名誉判事になってください。これからも、はがきが行ったら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」
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「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判を、まるで一分半でかたづけてくださいました。どうかこれからわたしの裁判所の、名誉判事になってください。これからも、葉書が行ったら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」
「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」
原文を見る
「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」
「いいえ、お礼はどうかとってください。わたしの面目にかかわりますから。そしてこれからは、はがきにかねた一郎どのと書いて、こちらを裁判所としますが、よろしいですか。」
原文を見る
「いいえ、お礼はどうかとってください。わたしのじんかくにかかわりますから。そしてこれからは、葉書にかねた一郎どのと書いて、こちらを裁判所としますが、ようございますか。」
一郎が「ええ、かまいません。」
原文を見る
一郎が「ええ、かまいません。」
と言うと、山ねこはまだ何か言いたそうに、しばらくひげをひねって、目をぱちぱちさせていましたが、とうとう決心したらしく言い出しました。
原文を見る
と申しますと、やまねこはまだなにか言いたそうに、しばらくひげをひねって、眼をぱちぱちさせていましたが、とうとう決心したらしく言い出しました。
「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事があるので、明日出頭すべしと書いてどうでしょう。」
原文を見る
「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでしょう。」
一郎は笑って言いました。
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一郎はわらって言いました。
「さあ、なんだか変ですね。それだけはやめた方がいいでしょう。」
原文を見る
「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいいでしょう。」
山猫は、どうも言い方がまずかった、いかにも残念だという様子で、しばらくひげをひねったまま下を向いていましたが、やっとあきらめて言いました。
原文を見る
山猫は、どうも言いようがまずかった、いかにも残念だというふうに、しばらくひげをひねったまま、下を向いていましたが、やっとあきらめて言いました。
「それでは、文句は今までのとおりにしましょう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭の頭と、どちらがお好きですか。」
原文を見る
「それでは、文句はいままでのとおりにしましょう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どっちをおすきですか。」
「黄金のどんぐりがいいです。」
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「黄金のどんぐりがすきです。」
山猫は、鮭の頭でなくてまあよかったというように、口早に馬車別当に言いました。
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山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかったというように、口早に馬車別当に云いました。
「どんぐりを一升早く持ってこい。一升に足りなかったら、めっきのどんぐりも混ぜてこい。早く。」
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「どんぐりを一升早くもってこい。一升にたりなかったら、めっきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
別当は、さっきのどんぐりをますに入れて、はかって叫びました。
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別当は、さっきのどんぐりをますに入れて、はかって叫びました。
「ちょうど一升あります。」
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「ちょうど一升あります。」
山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。
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山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。
そこで山ねこは、大きく伸び上がって、目をつぶって、半分あくびをしながら言いました。
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そこで山ねこは、大きく延びあがって、めをつぶって、半分あくびをしながら言いました。
「よし、早く馬車の準備をしろ。」
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「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」
白い大きなきのこで作った馬車が、引っ張り出されました。
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白い大きなきのこでこしらえた馬車が、ひっぱりだされました。
そして何だかネズミ色の、変な形の馬がついています。
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そしてなんだかねずみいろの、おかしな形の馬がついています。
「さあ、お家へお送りいたしましょう。」
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「さあ、おうちへお送りいたしましょう。」
山猫が言いました。
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山猫が言いました。
二人は馬車に乗り、別当は、どんぐりのますを馬車の中に入れました。
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二人は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。
ひゅう、ぱちっ。
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ひゅう、ぱちっ。
馬車は草地を離れました。
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馬車は草地をはなれました。
木や藪が煙のようにぐらぐら揺れました。
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木や藪がけむりのようにぐらぐらゆれました。
一郎は黄金のどんぐりを見て、山ねこはとぼけた顔つきで遠くを見ていました。
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一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかおつきで、遠くをみていました。
馬車が進むにつれて、どんぐりはだんだん光が薄くなって、まもなく馬車が止まったときには、普通の茶色のどんぐりに変わっていました。
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馬車が進むにしたがって、どんぐりはだんだん光がうすくなって、まもなく馬車がとまったときは、あたりまえの茶いろのどんぐりに変っていました。
そして、山ねこの黄色い陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなって、一郎は自分の家の前に、どんぐりを入れたますを持って立っていました。
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そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなって、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持って立っていました。
それからあと、山ねこ拝というはがきは、もう来ませんでした。
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それからあと、山ねこ拝というはがきは、もうきませんでした。
やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思うのです。
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やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思うのです。