よめる文庫

やまなし

宮沢賢治みやざわけんじ)・1989

原文出典: 青空文庫

AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23

原文: 小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈げんとうです。
小さな谷川の底を映した、二枚の青いスライドです。
原文: 一、五月
一、五月
原文: ひきかにの子供らが青じろい水の底で話していました。
二匹の蟹の子どもたちが、青白い水の底で話していました。
原文: 『クラムボンはわらったよ。』
「クラムボンは笑ったよ。」
原文: 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ。」
原文: 『クラムボンはねてわらったよ。』
「クラムボンははねて笑ったよ。」
原文: 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ。」
原文: 上の方や横の方は、青くくらくはがねのように見えます。
上の方や横の方は、青く暗く、鋼鉄のように見えます。
原文: そのなめらかな天井てんじょうを、つぶつぶ暗いあわが流れて行きます。
そのなめらかな天井を、細かい暗い泡が流れていきます。
原文: 『クラムボンはわらっていたよ。』
「クラムボンは笑っていたよ。」
原文: 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ。」
原文: 『それならなぜクラムボンはわらったの。』
「それならなぜクラムボンは笑ったの。」
原文: 『知らない。』
「知らない。」
原文: つぶつぶ泡が流れて行きます。
細かい泡が流れていきます。
原文: 蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六つぶ泡をきました。
蟹の子どもたちもぽっぽっぽっと続けて五、六粒の泡を吐きました。
原文: それはゆれながら水銀のように光ってななめに上の方へのぼって行きました。
それはゆれながら水銀のように光って、斜めに上の方へのぼっていきました。
原文: つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。
すうっと銀色の腹をひるがえして、一匹の魚が頭の上を通り過ぎていきました。
原文: 『クラムボンは死んだよ。』
「クラムボンは死んだよ。」
原文: 『クラムボンは殺されたよ。』
「クラムボンは殺されたよ。」
原文: 『クラムボンは死んでしまったよ………。』
「クラムボンは死んでしまったよ………。」
原文: 『殺されたよ。』
「殺されたよ。」
原文: 『それならなぜ殺された。』
「それならなぜ殺された。」
原文: 兄さんの蟹は、その右側の四本のあしの中の二本を、弟の平べったい頭にのせながらいました。
兄さんの蟹は、右側の四本の脚のうち二本を、弟の平たい頭に乗せながら言いました。
原文: 『わからない。』
「わからない。」
原文: 魚がまたツウともどって下流のほうへ行きました。
魚がまたすうっと戻って下流の方へ行きました。
原文: 『クラムボンはわらったよ。』
「クラムボンは笑ったよ。」
原文: 『わらった。』
「笑った。」
原文: にわかにパッと明るくなり、日光の黄金きんゆめのように水の中に降って来ました。
急にぱっと明るくなり、黄金色の日光が夢のように水の中に降ってきました。
原文: 波から来る光のあみが、底の白いいわの上で美しくゆらゆらのびたりちぢんだりしました。
波から来る光の網が、底の白い岩の上できれいにゆらゆらと伸びたり縮んだりしました。
原文: 泡や小さなごみからはまっすぐなかげの棒が、斜めに水の中にならんで立ちました。
泡や小さなごみからはまっすぐな影の棒が、斜めに水の中に並んで立ちました。
原文: 魚がこんどはそこら中の黄金きんの光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、また上流かみの方へのぼりました。
魚が今度はそこら中の黄金色の光をまるっきりくちゃくちゃにして、おまけに自分は鉄色に変に底光りしながら、また上流の方へのぼっていきました。
原文: 『お魚はなぜああ行ったり来たりするの。』
「お魚はなぜああ行ったり来たりするの。」
原文: 弟の蟹がまぶしそうにを動かしながらたずねました。
弟の蟹がまぶしそうに目を動かしながら尋ねました。
原文: 『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』
「何か悪いことをしてるんだよ、捕まえてるんだよ。」
原文: 『とってるの。』
「捕まえてるの。」
原文: 『うん。』
「うん。」
原文: そのお魚がまた上流かみから戻って来ました。
その魚がまた上流から戻ってきました。
原文: 今度はゆっくり落ちついて、ひれもも動かさずただ水にだけ流されながらお口をのように円くしてやって来ました。
今度はゆっくり落ち着いて、ひれも尾も動かさず、ただ水の流れに乗りながら、口を輪のように丸くしてやってきました。
原文: その影は黒くしずかに底の光の網の上をすべりました。
その影は黒く静かに、底の光の網の上をすべりました。
原文: 『お魚は……。』
「お魚は……。」
原文: その時です。
そのときです。
原文: にわかに天井に白い泡がたって、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾てっぽうだまのようなものが、いきなり飛込とびこんで来ました。
突然、天井に白い泡が立って、青光りするまるでぎらぎらする鉄砲の弾のようなものが、いきなり飛び込んできました。
原文: 兄さんの蟹ははっきりとその青いもののさきがコンパスのように黒くとがっているのも見ました。
兄さんの蟹は、その青いものの先がコンパスのように黒くとがっているのもはっきり見ました。
原文: と思ううちに、魚の白い腹がぎらっと光って一ぺんひるがえり、上の方へのぼったようでしたが、それっきりもう青いものも魚のかたちも見えず光の黄金きんの網はゆらゆらゆれ、泡はつぶつぶ流れました。
と思う間に、魚の白い腹がぎらっと光って一度ひるがえり、上の方へのぼったようでしたが、それっきりもう青いものも魚の形も見えず、光の黄金の網はゆらゆらゆれ、泡は細かく流れました。
原文: 二疋はまるで声も出ず居すくまってしまいました。
二匹はまるで声も出ずその場に固まってしまいました。
原文: お父さんの蟹が出て来ました。
お父さんの蟹が出てきました。
原文: 『どうしたい。ぶるぶるふるえているじゃないか。』
「どうした。ぶるぶる震えているじゃないか。」
原文: 『お父さん、いまおかしなものが来たよ。』
「お父さん、今おかしなものが来たよ。」
原文: 『どんなもんだ。』
「どんなものだ。」
原文: 『青くてね、光るんだよ。はじがこんなに黒く尖ってるの。それが来たらお魚が上へのぼって行ったよ。』
「青くてね、光るんだよ。先っぽがこんなに黒くとがってるの。それが来たらお魚が上へのぼっていったよ。」
原文: 『そいつの眼が赤かったかい。』
「そいつの目が赤かったか。」
原文: 『わからない。』
「わからない。」
原文: 『ふうん。しかし、そいつは鳥だよ。かわせみと云うんだ。大丈夫だいじょうぶだ、安心しろ。おれたちはかまわないんだから。』
「ふうん。でも、そいつは鳥だよ。カワセミというんだ。大丈夫だ、安心しろ。俺たちには関係ないんだから。」
原文: 『お父さん、お魚はどこへ行ったの。』
「お父さん、お魚はどこへ行ったの。」
原文: 『魚かい。魚はこわい所へ行った』
「魚か。魚はこわい所へ行った。」
原文: 『こわいよ、お父さん。』
「こわいよ、お父さん。」
原文: 『いいいい、大丈夫だ。心配するな。そら、かばの花が流れて来た。ごらん、きれいだろう。』
「いいい、大丈夫だ。心配するな。ほら、樺の花が流れてきた。見てごらん、きれいだろう。」
原文: 泡と一緒いっしょに、白い樺の花びらが天井をたくさんすべって来ました。
泡と一緒に、白い樺の花びらが天井をたくさんすべってきました。
原文: 『こわいよ、お父さん。』
「こわいよ、お父さん。」
原文: 弟の蟹も云いました。
弟の蟹も言いました。
原文: 光の網はゆらゆら、のびたりちぢんだり、花びらの影はしずかに砂をすべりました。
光の網はゆらゆらと伸びたり縮んだり、花びらの影は静かに砂の上をすべりました。
原文: 二、十二月
二、十二月
原文: 蟹の子供らはもうよほど大きくなり、底の景色も夏から秋の間にすっかり変りました。
蟹の子どもたちはもうずいぶん大きくなり、底の景色も夏から秋の間にすっかり変わりました。
原文: 白いやわらかな円石まるいしもころがって来、小さなきりの形の水晶すいしょうの粒や、金雲母きんうんものかけらもながれて来てとまりました。
白くやわらかな丸い石も転がってきて、小さな錐の形をした水晶の粒や、金雲母のかけらも流れてきてとまりました。
原文: そのつめたい水の底まで、ラムネのびんの月光がいっぱいにすきとおり天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしているよう、あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように、その波の音がひびいて来るだけです。
その冷たい水の底まで、ラムネの瓶のような月の光がいっぱいに透き通り、天井では波が青白い炎を燃したり消したりしているよう、あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように、その波の音がひびいてくるだけです。
原文: 蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなのでねむらないで外に出て、しばらくだまって泡をはいて天上の方を見ていました。
蟹の子どもたちは、あまりにも月が明るく水がきれいなので眠れなくて外に出て、しばらく黙って泡を吐きながら天上の方を見ていました。
原文: 『やっぱりぼくの泡は大きいね。』
「やっぱり僕の泡の方が大きいね。」
原文: 『兄さん、わざと大きく吐いてるんだい。僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。』
「兄さん、わざと大きく吐いてるんでしょ。僕だってわざとならもっと大きく吐けるよ。」
原文: 『吐いてごらん。おや、たったそれきりだろう。いいかい、兄さんが吐くから見ておいで。そら、ね、大きいだろう。』
「吐いてみろよ。おや、たったそれだけか。いいかい、兄さんが吐くから見ててごらん。ほら、ね、大きいだろう。」
原文: 『大きかないや、おんなじだい。』
「大きくなんかないよ、同じだよ。」
原文: 『近くだから自分のが大きく見えるんだよ。そんなら一緒に吐いてみよう。いいかい、そら。』
「近くだから自分のが大きく見えるんだよ。じゃあ一緒に吐いてみよう。いいかい、ほら。」
原文: 『やっぱり僕の方大きいよ。』
「やっぱり僕の方が大きいよ。」
原文: 『本当かい。じゃ、も一つはくよ。』
「本当か。じゃあ、もう一つ吐くよ。」
原文: 『だめだい、そんなにのびあがっては。』
「だめだよ、そんなに背伸びしては。」
原文: またお父さんの蟹が出て来ました。
またお父さんの蟹が出てきました。
原文: 『もうねろねろ。おそいぞ、あしたイサドへ連れて行かんぞ。』
「もう寝ろ寝ろ。遅いぞ、明日イサドへ連れて行かないぞ。」
原文: 『お父さん、僕たちの泡どっち大きいの』
「お父さん、僕たちの泡どっちが大きいの。」
原文: 『それは兄さんの方だろう』
「それは兄さんの方だろう。」
原文: 『そうじゃないよ、僕の方大きいんだよ』
「そうじゃないよ、僕の方が大きいんだよ。」
原文: 弟の蟹は泣きそうになりました。
弟の蟹は泣きそうになりました。
原文: そのとき、トブン。
そのとき、トブン。
原文: 黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうっとしずんで又上へのぼって行きました。
黒くて丸くて大きなものが、天井から落ちてずうっと沈み、また上へのぼっていきました。
原文: キラキラッと黄金きんのぶちがひかりました。
キラキラッと金色の斑点が光りました。
原文: 『かわせみだ』
「カワセミだ。」
原文: 子供らの蟹はくびをすくめて云いました。
子どもの蟹たちは首をすくめて言いました。
原文: お父さんの蟹は、遠めがねのような両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云いました。
お父さんの蟹は、望遠鏡のような両方の目をできる限り伸ばして、よくよく見てから言いました。
原文: 『そうじゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行って見よう、ああいいにおいだな』
「そうじゃない、あれはやまなしだ、流れていくぞ、ついていって見よう、ああいいにおいだな。」
原文: なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいっぱいでした。
なるほど、あたりの月明かりの水の中は、やまなしのいいにおいでいっぱいでした。
原文: 三疋はぼかぼか流れて行くやまなしのあとを追いました。
三匹はぼかぼかと流れていくやまなしのあとを追いました。
原文: その横あるきと、底の黒い三つの影法師かげぼうしが、合せて六つおどるようにして、やまなしの円い影を追いました。
その横歩きと、底の黒い三つの影が合わせて六つ踊るようにして、やまなしの丸い影を追いました。
原文: 間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青いほのおをあげ、やまなしは横になって木のえだにひっかかってとまり、その上には月光のにじがもかもか集まりました。
間もなく水はさらさら鳴り、天井の波はいよいよ青い炎をあげ、やまなしは横になって木の枝にひっかかってとまり、その上には月光の虹がもかもかと集まりました。
原文: 『どうだ、やっぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだろう。』
「どうだ、やっぱりやまなしだよ、よく熟している、いいにおいだろう。」
原文: 『おいしそうだね、お父さん』
「おいしそうだね、お父さん。」
原文: 『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へしずんで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰ってよう、おいで』
「待て待て、もう二日ほど待つとね、これは下に沈んでくる、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰って寝よう、おいで。」
原文: 親子の蟹は三疋自分の穴に帰って行きます。
親子の蟹は三匹、自分たちの巣穴に帰っていきます。
原文: 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石こんごうせきの粉をはいているようでした。
波はいよいよ青白い炎をゆらゆらとあげました。それはまるでダイヤモンドの粉を吐いているようでした。
原文:
原文: 私の幻燈はこれでおしまいであります。
私のスライドはこれでおしまいです。