注文の多い料理店 小学生向け
宮沢賢治(みやざわけんじ)・1990年
AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23)
二人の若い男の人が、まるでイギリスの兵隊みたいな服を着て、ぴかぴか光る鉄砲をかついで、白熊のような犬を二匹つれて、かなり山の奥の、木の葉がかさかさと乾いたところを、こんなことを言いながら歩いていました。
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二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
「まったく、このあたりの山はひどいね。鳥も獣も一匹もいやしない。なんでもいいから、早くタンタアーンと撃ってみたいものだなあ。」
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「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
「鹿の黄色いわき腹に二、三発お見舞いしてやったら、すごく気持ちいいだろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
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「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
それはかなり深い山の奥でした。
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それはだいぶの山奥でした。
案内してきた腕のいい猟師(りょうし)も、道に迷ってどこかへ行ってしまったくらいの山の奥でした。
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案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
それに、山がとても気味悪かったので、あの白熊のような犬が二匹いっしょにめまいを起こして、しばらくうなり声をあげ、それから口から泡を吐いて死んでしまいました。
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それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく吠って、それから泡を吐いて死んでしまいました。
「まったく、ぼくは二千四百円の損だ」
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「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」
と一人の男の人が、その犬のまぶたをちょっとめくって見ながら言いました。
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と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
「ぼくは二千八百円の損だ。」
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「ぼくは二千八百円の損害だ。」
ともう一人が、悔しそうに頭を下げて言いました。
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と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。
最初の男の人は少し顔色を悪くして、じっともう一人の男の人の顔を見ながら言いました。
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はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。
「ぼくはもう帰ろうと思う。」
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「ぼくはもう戻ろうとおもう。」
「そうだ、ぼくもちょうど寒くなってきたし、おなかも空いてきたし、帰ろうと思う。」
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「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」
「じゃあ、もうやめにしよう。帰りに昨日(きのう)の宿屋で、山鳥を十円分買って帰ればいい。」
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「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買って帰ればいい。」
「ウサギも出ていたしね。そうすれば結局おんなじことだ。では帰ろうじゃないか」
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「兎もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか」
ところがどうも困ったことに、どっちへ行けば帰れるのか、まったく見当もつかなくなっていました。
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ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。
風がどうっと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
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風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
「どうもおなかが空いた。さっきからわき腹が痛くてたまらないんだ。」
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「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもそうだ。もうあんまり歩きたくないな。」
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「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」
「歩きたくないよ。ああ困ったなあ、何か食べたいなあ。」
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「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」
「食べたいものだなあ」
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「喰べたいもんだなあ」
二人の男の人は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを言いました。
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二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。
そのとき、ふと後ろを見ると、立派な西洋風の家が一軒ありました。
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その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。
そして玄関(げんかん)には
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そして玄関には
RESTAURANT
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RESTAURANT
西洋料理店
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西洋料理店
WILDCAT HOUSE
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WILDCAT HOUSE
山猫軒
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山猫軒
という札が出ていました。
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という札がでていました。
「君、ちょうどよかった。ここはなかなか立派なお店だ。入ろうじゃないか」
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「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」
「おや、こんなところにおかしいね。でもとにかく何か食事ができるんだろう」
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「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」
「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」
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「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」
「入ろうじゃないか。ぼくはもう何か食べたくて倒れそうなんだ。」
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「はいろうじゃないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」
二人は玄関に立ちました。
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二人は玄関に立ちました。
玄関は白い陶器(とうき)のレンガで作られていて、本当に立派なものでした。
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玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。
そしてガラスの開き戸が立っていて、そこに金の文字でこう書いてありました。
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そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。
「どなたもどうかお入りください。どうぞご遠慮なく」
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「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
二人はそれを見て、とてもよろこんで言いました。
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二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。
「これはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、今日一日ひどい目にあったけれど、こんないいこともある。この店は料理屋なのに、ただでごちそうしてくれるんだぜ。」
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「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」
「どうもそうらしい。『決してご遠慮はありません』というのはそういう意味だ。」
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「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」
二人は戸を押して中へ入りました。
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二人は戸を押して、なかへ入りました。
そこはすぐ廊下(ろうか)になっていました。
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そこはすぐ廊下になっていました。
そのガラス戸の裏側には、金の文字でこうなっていました。
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その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。
「ことに太ったお客様や若いお客様は、大歓迎(だいかんげい)いたします」
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「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」
二人は「大歓迎」と書いてあるので、もう大よろこびです。
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二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。
「君、ぼくらは大歓迎にあてはまっているのだ。」
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「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」
「ぼくらは両方ともあてはまっているから」
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「ぼくらは両方兼ねてるから」
どんどん廊下を進んで行くと、こんどは水色のペンキ塗りのドアがありました。
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ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗りの扉がありました。
「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」
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「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」
「これはロシア式だよ。寒いところや山の中はみんなこうさ。」
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「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」
そして二人がそのドアをあけようとすると、上に黄色い字でこう書いてありました。
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そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。
「当店はご注文の多い料理店ですから、どうかそこのところはご承知ください」
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「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
「なかなか流行(はや)ってるんだ。こんな山の中なのに。」
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「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」
「そりゃそうだ。見てごらん、東京の大きな料理屋だって、大通りには少ないだろう」
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「それあそうだ。見たまえ、東京の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」
二人はそう言いながら、そのドアをあけました。
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二人は云いながら、その扉をあけました。
するとその裏側に、
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するとその裏側に、
「ご注文はずいぶん多いでしょうが、どうか一つ一つこらえてください。」
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「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
「これはいったいどういうことだ。」
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「これはぜんたいどういうんだ。」
一人の男の人は顔をしかめました。
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ひとりの紳士は顔をしかめました。
「うん、これはきっと注文が多すぎて準備に時間がかかるけれど、申し訳ないとそういうことだ。」
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「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいと斯ういうことだ。」
「そうだろう。早くどこか部屋の中に入りたいものだな。」
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「そうだろう。早くどこか室の中にはいりたいもんだな。」
「そしてテーブルに座りたいものだな。」
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「そしてテーブルに座りたいもんだな。」
ところがまた、うるさいことに、もう一つドアがありました。
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ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。
そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄(え)のついたブラシが置いてあったのです。
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そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。
ドアには赤い字で、
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扉には赤い字で、
「お客様方、ここで髪をきちんとして、それからはきものの
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「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきもの
泥(どろ)を落としてください。」
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の泥を落してください。」
と書いてありました。
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と書いてありました。
「これはごもっともだ。ぼくもさっき玄関で、山の中だと思ってなめてかかっていたよ」
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「これはどうも尤もだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」
「礼儀の厳しい店だ。きっとよほど偉い人たちがたびたび来るんだ。」
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「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」
そこで二人は、きれいに髪をとかして、靴の泥を落としました。
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そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。
そしたら、どうでしょう。
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そしたら、どうです。
ブラシを板の上に置くやいなや、そいつがぼうっとかすんで消えてしまい、風がどうっと部屋の中に入ってきました。
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ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。
二人はびっくりして、お互いに寄り添って、ドアをがたんと開けて、次の部屋へ入って行きました。
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二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。
早く何か温かいものでも食べて元気をつけておかないと、もうとんでもないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。
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早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。
ドアの内側に、また変なことが書いてありました。
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扉の内側に、また変なことが書いてありました。
「鉄砲と弾丸(たま)をここに置いてください。」
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「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
見るとすぐ横に黒い台がありました。
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見るとすぐ横に黒い台がありました。
「なるほど、鉄砲を持ったまま食事をするという法はない。」
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「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」
「いや、よほど偉い人がいつも来ているんだ。」
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「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ。」
二人は鉄砲をはずし、腰のベルトをほどいて、それを台の上に置きました。
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二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。
また黒いドアがありました。
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また黒い扉がありました。
「どうか帽子とオーバーコートと靴をお取りください。」
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「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
「どうだ、取るか。」
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「どうだ、とるか。」
「仕方ない、取ろう。たしかによほど偉い人が奥に来ているんだ」
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「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来ているのは」
二人は帽子とオーバーコートを釘(くぎ)にかけ、靴をぬいでぺたぺたと歩いてドアの中に入りました。
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二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。
ドアの裏側には、
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扉の裏側には、
「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡(めがね)、財布(さいふ)、そのほか金属のもの、
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「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、
とくに先のとがったものは、みんなここに置いてください」
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ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
と書いてありました。
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と書いてありました。
ドアのすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。
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扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。
鍵(かぎ)まで添えてあったのです。
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鍵まで添えてあったのです。
「ははあ、何かの料理に電気を使うようだね。金属のものは危ない。とくに先のとがったものは危ないということだろう。」
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「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないと斯う云うんだろう。」
「そうだろう。そうすると、お会計は帰りにここで払うのだろうか。」
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「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」
「どうもそうらしい。」
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「どうもそうらしい。」
「そうだ。きっと。」
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「そうだ。きっと。」
二人は眼鏡をはずしたり、カフスボタンを取ったりして、みんな金庫の中に入れて、ぱちんと錠(じょう)をかけました。
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二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。
少し行くとまたドアがあって、その前にガラスの壺(つぼ)が一つありました。
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すこし行きますとまた扉があって、その前に硝子の壺が一つありました。
ドアにはこう書いてありました。
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扉には斯う書いてありました。
「壺の中のクリームを顔や手足にたっぷり塗ってください。」
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「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
見るとたしかに壺の中のものは牛乳のクリームでした。
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みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。
「クリームを塗れというのはどういうことだ。」
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「クリームをぬれというのはどういうんだ。」
「これはね、外がとても寒いだろう。部屋の中がとても暖かいとひびが切れるから、その予防なんだ。どうも奥にはよほど偉い人が来ている。こんなところで、案外ぼくらは貴族と仲良くなれるかも知れないよ。」
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「これはね、外がひじょうに寒いだろう。室のなかがあんまり暖いとひびがきれるから、その予防なんだ。どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづきになるかも知れないよ。」
二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗って、それから靴下をぬいで足に塗りました。
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二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗ってそれから靴下をぬいで足に塗りました。
それでもまだ残っていましたから、二人ともそれぞれこっそり顔へ塗るふりをしながら食べてしまいました。
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それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら喰べました。
それから大急ぎでドアをあけると、その裏側には、
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それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、
「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」
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「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」
と書いてあって、小さなクリームの壺がここにも置いてありました。
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と書いてあって、ちいさなクリームの壺がここにも置いてありました。
「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あやうく耳にひびを切らすところだった。ここの主人は本当に用意が行き届いているね。」
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「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到だね。」
「ああ、細かいところまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か食べたいんだが、どうもこんなにずっと廊下では仕方ないね。」
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「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」
するとすぐその前に次の戸がありました。
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するとすぐその前に次の戸がありました。
「料理はもうすぐできます。
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「料理はもうすぐできます。
十五分もお待たせはいたしません。
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十五分とお待たせはいたしません。
すぐ食べられます。
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すぐたべられます。
早くあなたの頭に、瓶(びん)の中の香水をよくふりかけてください。」
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早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
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そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃとふりかけました。
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二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
ところがその香水は、どうもお酢(す)のようなにおいがするのでした。
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ところがその香水は、どうも酢のような匂がするのでした。
「この香水は変に酸っぱいにおいがする。どうしたんだろう。」
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「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
「まちがえたんだ。使用人が風邪でも引いて、まちがえて入れたんだ。」
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「まちがえたんだ。下女が風邪でも引いてまちがえて入れたんだ。」
二人はドアをあけて中に入りました。
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二人は扉をあけて中にはいりました。
ドアの裏側には、大きな字でこう書いてありました。
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扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。申し訳ありませんでした。
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「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
もうこれだけです。
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もうこれだけです。
どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん
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どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん
よくもみ込んでください。」
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よくもみ込んでください。」
なるほど立派な青い陶器の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとして、お互いにクリームをたくさん塗った顔を見合わせました。
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なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互にクリームをたくさん塗った顔を見合せました。
「どうもおかしいぞ。」
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「どうもおかしいぜ。」
「ぼくもおかしいと思う。」
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「ぼくもおかしいとおもう。」
「たくさんの注文というのは、向こうがこっちへ注文しているんだよ。」
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「沢山の注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を来た人に食べさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして食べてやる店ということなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」
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「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」
がたがたがたがた、震えだして、もう言葉が出ませんでした。
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がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。
「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」
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「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」
がたがたがたがたと震えだして、もう言葉が出ませんでした。
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がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。
「に、逃げ……。」
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「遁げ……。」
がたがたしながら一人の男の人は後ろの戸を押そうとしましたが、どうでしょう、戸はもう少しも動きませんでした。
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がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう一分も動きませんでした。
奥にはまだ一枚ドアがあって、大きな鍵穴が二つついていて、銀色のフォークとナイフの形が切り抜かれていて、
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奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、
「いや、わざわざご苦労様です。
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「いや、わざわざご苦労です。
大変うまくできました。
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大へん結構にできました。
さあさあ、おなかの中においでください。」
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さあさあおなかにおはいりください。」
と書いてありました。
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と書いてありました。
おまけに鍵穴からは、きょろきょろと二つの青い目玉がこちらをのぞいています。
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おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉がこっちをのぞいています。
「うわあ。」
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「うわあ。」
がたがたがたがた。
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がたがたがたがた。
「うわあ。」
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「うわあ。」
がたがたがたがた。
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がたがたがたがた。
二人は泣き出しました。
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ふたりは泣き出しました。
すると戸の中では、こそこそとこんなことを言っています。
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すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。
「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみ込まないようだよ。」
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「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」
「あたりまえさ。親分の書き方が悪いんだ。あそこに、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、申し訳ありませんでしたなんて、まぬけなことを書いたもんだ。」
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「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」
「どっちでもいいよ。どうせぼくらには骨も分けてくれやしないんだ。」
原文を見る
「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉れやしないんだ。」
「それはそうだ。でももしここへあいつらが入って来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」
原文を見る
「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、野菜ももうよく塩でもんでおきました。あとはあなた方と野菜をうまく取り合わせて、真っ白なお皿にのせるだけです。早くいらっしゃい。」
原文を見る
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラダはお嫌いですか。それならこれから火を起こしてフライにしてあげましょうか。とにかく早くいらっしゃい。」
原文を見る
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」
二人はあまりにも怖(こわ)くて悲しくて、顔がまるでくしゃくしゃになった紙くずのようになり、お互いにその顔を見合わせ、ぶるぶると震え、声も出ないまま泣きました。
原文を見る
二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。
中ではふっふっと笑ってまた叫んでいます。
原文を見る
中ではふっふっとわらってまた叫んでいます。
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては、せっかく塗ったクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。すぐ持ってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
原文を見る
「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフを持って、舌なめずりして、お客さま方をお待ちです。」
原文を見る
「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
原文を見る
二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
そのとき後ろからいきなり、
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そのときうしろからいきなり、
「わん、わん、ぐゎあ。」
原文を見る
「わん、わん、ぐゎあ。」
という声がして、あの白熊のような犬が二匹、ドアを突き破って部屋の中に飛び込んできました。
原文を見る
という声がして、あの白熊のような犬が二疋、扉をつきやぶって室の中に飛び込んできました。
鍵穴の目玉はたちまちなくなり、犬たちはううっとうなってしばらく部屋の中をくるくると回っていましたが、また一声
原文を見る
鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくる廻っていましたが、また一声
「わん。」
原文を見る
「わん。」
と高く吠えて、いきなり次のドアに飛びつきました。
原文を見る
と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。
戸はがたりと開き、犬たちは吸い込まれるように飛んで行きました。
原文を見る
戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。
そのドアの向こうの真っ暗やみの中で、
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その扉の向うのまっくらやみのなかで、
「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」
原文を見る
「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」
という声がして、それからがさがさと音が鳴りました。
原文を見る
という声がして、それからがさがさ鳴りました。
部屋はけむりのように消えて、二人は寒さにぶるぶると震えながら、草の中に立っていました。
原文を見る
室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。
見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あっちの枝にぶら下がったり、こっちの木の根元に散らばったりしています。
原文を見る
見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。
風がどうっと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
原文を見る
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
犬がふうっとうなって戻ってきました。
原文を見る
犬がふうとうなって戻ってきました。
そして後ろからは、
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そしてうしろからは、
「旦那(だんな)あ、旦那あ、」
原文を見る
「旦那あ、旦那あ、」
と叫ぶ者があります。
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と叫ぶものがあります。
二人は急に元気が出て
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二人は俄かに元気がついて
「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」
原文を見る
「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」
と叫びました。
原文を見る
と叫びました。
みの笠(みのぼうし)をかぶった腕のいい猟師が、草をざわざわと分けてやってきました。
原文を見る
簔帽子をかぶった専門の猟師が、草をざわざわ分けてやってきました。
そこで二人はやっと安心しました。
原文を見る
そこで二人はやっと安心しました。
そして猟師の持ってきた団子(だんご)を食べ、帰り道で十円分だけ山鳥を買って東京に帰りました。
原文を見る
そして猟師のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。
しかし、さっき一度紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お風呂に入っても、もうもとのとおりには直りませんでした。
原文を見る
しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。