よめる文庫

注文の多い料理店 現代語訳

宮沢賢治みやざわけんじ)・1990

AI生成この訳はAI(claude-sonnet-4-6)が原文から生成したものです(生成日: 2026-07-23

二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊みたいな格好をして、ぴかぴか光る鉄砲をかついで、白熊みたいな大きな犬を二匹連れて、かなり奥まった山の中の、木の葉がカサカサ音を立てるような場所を、こんなことを言いながら歩いていました。

原文を見る

二人の若い紳士しんしが、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲てっぽうをかついで、白熊しろくまのような犬を二ひきつれて、だいぶ山奥やまおくの、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことをいながら、あるいておりました。

「まったく、この辺の山はひどいなあ。鳥も獣も一匹もいやしない。とにかく早くタンタアーンと撃ってみたいもんだ。」

原文を見る

「ぜんたい、ここらの山はしからんね。鳥もけものも一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」

「鹿の黄色い横腹にでも二、三発お見舞いしたら、ずいぶん痛快だろうなあ。くるくる回って、それからどたっと倒れるだろうなあ。」

原文を見る

鹿しかの黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞みまいもうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっとたおれるだろうねえ。」

そこはかなりの山奥でした。

原文を見る

それはだいぶの山奥でした。

案内してきたベテランの猟師も少し迷ってしまって、どこかへ行ってしまったほどの山奥でした。

原文を見る

案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。

それに、山があまりにも不気味だったので、あの白熊みたいな犬が二匹一緒にめまいを起こして、しばらく唸ったあと、泡を吹いて死んでしまいました。

原文を見る

それに、あんまり山が物凄ものすごいので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらくうなって、それからあわいて死んでしまいました。

「まったく僕は、二千四百円の損害だ」

原文を見る

「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」

と一人の紳士が、その犬のまぶたをちょっとめくってみてから言いました。

原文を見る

と一人の紳士が、その犬のぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。

「僕は二千八百円の損害だ。」

原文を見る

「ぼくは二千八百円の損害だ。」

と、もう一人が悔しそうに頭を傾けて言いました。

原文を見る

と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。

最初の紳士は少し顔色を悪くして、じっともう一人の紳士の顔を見ながら言いました。

原文を見る

はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。

「僕はもう帰ろうと思う。」

原文を見る

「ぼくはもうもどろうとおもう。」

「そうだな、僕もちょうど寒くなってきたし、腹も空いてきたから帰ろうと思う。」

原文を見る

「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹はいてきたし戻ろうとおもう。」

「じゃあ、これで切り上げよう。帰りに昨日の宿屋で山鳥を十円分も買って帰ればいい。」

原文を見る

「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、昨日きのうの宿屋で、山鳥を拾円じゅうえんも買って帰ればいい。」

「兎も出ていたよね。それなら結局同じことだ。では帰ろうじゃないか」

原文を見る

うさぎもでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか」

ところが困ったことに、どっちへ行けば帰れるのか、まったく見当がつかなくなっていました。

原文を見る

ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。

風がどうっと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はカサカサ、木はゴトンゴトンと鳴りました。

原文を見る

風がどうといてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

「どうも腹が空いた。さっきから脇腹が痛くてたまらないんだ。」

原文を見る

「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」

「僕もそうだ。もうあんまり歩きたくないな。」

原文を見る

「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」

「歩きたくないよ。ああ困ったなあ、何か食べたいなあ。」

原文を見る

「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」

「食べたいもんだなあ」

原文を見る

べたいもんだなあ」

二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中でこんなことを言いました。

原文を見る

二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。

そのとき、ふと後ろを振り向くと、立派な一軒の西洋風の建物がありました。

原文を見る

その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒いっけんの西洋造りの家がありました。

そして玄関には

原文を見る

そして玄関げんかんには

RESTAURANT

原文を見る

RESTAURANT

西洋料理店

原文を見る

西洋料理店

WILDCAT HOUSE

原文を見る

WILDCAT HOUSE

山猫軒

原文を見る

山猫軒

という看板が出ていました。

原文を見る

という札がでていました。

「君、ちょうどよかった。ここはなかなか洒落た店だよ。入ろうじゃないか」

原文を見る

「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」

「おや、こんなところに珍しいね。でもとにかく何か食事ができるんだろう」

原文を見る

「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」

「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」

原文を見る

「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」

「入ろうじゃないか。僕はもう何か食べたくて倒れそうなんだ。」

原文を見る

「はいろうじゃないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」

二人は玄関に立ちました。

原文を見る

二人は玄関に立ちました。

玄関は白い瀬戸物のレンガで組まれていて、実に立派なものでした。

原文を見る

玄関は白い瀬戸せと煉瓦れんがで組んで、実に立派なもんです。

そしてガラスの開き戸が立っていて、そこに金文字でこう書いてありました。

原文を見る

そして硝子がらすの開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。

「どなたもどうかお入りください。どうぞご遠慮はいりません」

原文を見る

「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮えんりょはありません」

二人はそれを見て大喜びで言いました。

原文を見る

二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。

「これはどうだ、やっぱり世の中うまくできているねえ。今日一日苦労したけど、今度はこんないいこともある。ここは料理店なのに無料でご馳走してくれるんだぜ。」

原文を見る

「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走ちそうするんだぜ。」

「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」

原文を見る

「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」

二人は戸を押して中へ入りました。

原文を見る

二人は戸をして、なかへ入りました。

そこはすぐ廊下になっていました。

原文を見る

そこはすぐ廊下ろうかになっていました。

そのガラス戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

原文を見る

その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

「特に太ったお方や若いお方は大歓迎いたします」

原文を見る

「ことにふとったお方や若いお方は、大歓迎だいかんげいいたします」

二人は大歓迎とあるので、もう大喜びでした。

原文を見る

二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。

「君、僕らは大歓迎に当たっているんだ。」

原文を見る

「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」

「僕らは両方当てはまるからね」

原文を見る

「ぼくらは両方兼ねてるから」

どんどん廊下を進んでいくと、今度は水色のペンキ塗りの扉がありました。

原文を見る

ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキりのがありました。

「どうも変な建物だ。なんでこんなにたくさん戸があるんだろう。」

原文を見る

「どうも変なうちだ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」

「これはロシア式なんだ。寒いところや山の中はみんなこうなんだよ。」

原文を見る

「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」

そして二人がその扉を開けようとすると、上に黄色い字でこう書いてありました。

原文を見る

そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。

「当店はご注文の多い料理店ですので、その点はどうかご了承ください」

原文を見る

「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」

「なかなか繁盛しているんだ。こんな山の中なのに。」

原文を見る

「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」

「そりゃそうだ。東京の大きな料理屋だって、大通りにはそう多くないだろう」

原文を見る

「それあそうだ。見たまえ、東京の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」

二人は話しながら、その扉を開けました。

原文を見る

二人は云いながら、その扉をあけました。

するとその裏側に、

原文を見る

するとその裏側に、

「ご注文はずいぶん多いでしょうが、どうか一つ一つご辛抱ください。」

原文を見る

「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」

「これはいったいどういうことだ。」

原文を見る

「これはぜんたいどういうんだ。」

一人の紳士は顔をしかめました。

原文を見る

ひとりの紳士は顔をしかめました。

「うん、これはきっと注文が多すぎて準備に手間取るけどすみませんということだよ。」

原文を見る

「うん、これはきっと注文があまり多くて支度したくが手間取るけれどもごめん下さいとういうことだ。」

「そうだろう。早く部屋の中に入りたいもんだな。」

原文を見る

「そうだろう。早くどこかへやの中にはいりたいもんだな。」

「そしてテーブルに座りたいもんだな。」

原文を見る

「そしてテーブルにすわりたいもんだな。」

ところがうっとうしいことに、またもう一枚扉がありました。

原文を見る

ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。

そしてそのわきに鏡がかかっていて、その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。

原文を見る

そしてそのわきに鏡がかかって、その下には長いのついたブラシが置いてあったのです。

扉には赤い字で、

原文を見る

扉には赤い字で、

「お客様がた、ここで髪をきちんとして、それから靴

原文を見る

「お客さまがた、ここでかみをきちんとして、それからはきもの

の泥を落としてください。」

原文を見る

どろを落してください。」

と書いてありました。

原文を見る

と書いてありました。

「これはまあ当然だ。僕もさっき玄関で、山の中だからと思って舐めてかかったよ」

原文を見る

「これはどうももっともだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」

「作法の厳しい店だ。きっとよほど偉い人たちがしょっちゅう来るんだ。」

原文を見る

「作法の厳しい家だ。きっとよほどえらい人たちが、たびたび来るんだ。」

そこで二人は、きれいに髪を整えて、靴の泥を落としました。

原文を見る

そこで二人は、きれいに髪をけずって、くつの泥を落しました。

そうしたら、どうでしょう。

原文を見る

そしたら、どうです。

ブラシを板の上に置くやいなや、それがぼうっとかすんで消えてしまい、風がどうっと部屋の中に入ってきました。

原文を見る

ブラシを板の上に置くやいなや、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。

二人はびっくりして互いに寄り添い、扉をガタンと開けて次の部屋へ入っていきました。

原文を見る

二人はびっくりして、たがいによりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。

早く何か温かいものでも食べて元気をつけておかないと、もうどうにもならなくなってしまうと、二人とも思ったのでした。

原文を見る

早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方とほうもないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。

扉の内側に、またおかしなことが書いてありました。

原文を見る

扉の内側に、また変なことが書いてありました。

「鉄砲と弾をここへ置いてください。」

原文を見る

「鉄砲と弾丸たまをここへ置いてください。」

見るとすぐ横に黒い台がありました。

原文を見る

見るとすぐ横に黒い台がありました。

「なるほど、鉄砲を持ったまま食事するわけにはいかないよな。」

原文を見る

「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」

「よほど偉い人がいつも来ているんだ。」

原文を見る

「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ。」

二人は鉄砲を外して、ベルトを解いて、それを台の上に置きました。

原文を見る

二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。

また黒い扉がありました。

原文を見る

また黒い扉がありました。

「帽子と外套と靴をお脱ぎください。」

原文を見る

「どうか帽子ぼうし外套がいとうと靴をおとり下さい。」

「どうする、脱ぐか。」

原文を見る

「どうだ、とるか。」

「仕方ない、脱ごう。きっとよほど偉い人が奥に来ているんだ」

原文を見る

「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなんだ。奥に来ているのは」

二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴を脱いでぺたぺたと歩いて扉の中に入りました。

原文を見る

二人は帽子とオーバーコートをくぎにかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。

扉の裏側には、

原文を見る

扉の裏側には、

「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金属類、

原文を見る

「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡めがね財布さいふ、その他金物類、

特に尖ったものは、みんなここに置いてください」

原文を見る

ことにとがったものは、みんなここに置いてください」

と書いてありました。

原文を見る

と書いてありました。

扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫が、口を開けて置いてありました。

原文を見る

扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。

鍵まで添えてあったのです。

原文を見る

かぎまでえてあったのです。

「ははあ、どうやら料理に電気を使うらしいね。金属のものは危ない。特に尖ったものは危ないということだろう。」

原文を見る

「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。金気かなけのものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないとう云うんだろう。」

「そうだろう。ということは、お勘定は帰りにここで払うのだろうか。」

原文を見る

「そうだろう。して見ると勘定かんじょうは帰りにここではらうのだろうか。」

「どうもそうらしい。」

原文を見る

「どうもそうらしい。」

「そうだ。きっとそうだ。」

原文を見る

「そうだ。きっと。」

二人は眼鏡を外したり、カフスボタンを取ったりして、みんな金庫の中に入れ、パチンと錠をかけました。

原文を見る

二人はめがねをはずしたり、カフスボタンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんとじょうをかけました。

少し進むとまた扉があって、その前にガラスの壺が一つ置いてありました。

原文を見る

すこし行きますとまたがあって、その前に硝子がらすつぼが一つありました。

扉にはこう書いてありました。

原文を見る

扉にはう書いてありました。

「壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」

原文を見る

「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」

見ると確かに壺の中のものは牛乳のクリームでした。

原文を見る

みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。

「クリームを塗れというのはどういうことだ。」

原文を見る

「クリームをぬれというのはどういうんだ。」

「これはね、外がとても寒いだろう。部屋の中があんまり暖かいとひび割れができるから、その予防なんだ。どうも奥には、よほど偉い人が来ている。こんなところで、案外僕らは貴族と知り合いになれるかもしれないよ。」

原文を見る

「これはね、外がひじょうに寒いだろう。へやのなかがあんまり暖いとひびがきれるから、その予防なんだ。どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづきになるかも知れないよ。」

二人は壺のクリームを顔に塗って、手に塗って、それから靴下を脱いで足に塗りました。

原文を見る

二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗ってそれから靴下をぬいで足に塗りました。

それでもまだ残っていたので、二人ともそれぞれこっそり顔に塗るふりをしながら食べました。

原文を見る

それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら喰べました。

それから急いで扉を開けると、その裏側には、

原文を見る

それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、

「クリームはよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」

原文を見る

「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」

と書いてあって、小さなクリームの壺がここにも置いてありました。

原文を見る

と書いてあって、ちいさなクリームの壺がここにも置いてありました。

「そうそう、僕は耳には塗らなかった。あやうく耳にひびを切らすところだった。ここの主人は実に用意周到だね。」

原文を見る

「そうそう、ぼくは耳には塗らなかった。あぶなく耳にひびを切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到しゅうとうだね。」

「ああ、細かいところまでよく気がつくよ。ところで僕は早く何か食べたいんだが、どうもこんなにどこまでも廊下じゃ困るね。」

原文を見る

「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」

するとすぐその前に次の戸がありました。

原文を見る

するとすぐその前に次の戸がありました。

「料理はもうすぐできます。

原文を見る

「料理はもうすぐできます。

十五分もお待たせはいたしません。

原文を見る

十五分とお待たせはいたしません。

すぐ食べられます。

原文を見る

すぐたべられます。

早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」

原文を見る

早くあなたの頭にびんの中の香水をよくりかけてください。」

そして戸の前には金ぴかの香水の瓶が置いてありました。

原文を見る

そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。

二人はその香水を、頭にパチャパチャと振りかけました。

原文を見る

二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。

ところがその香水は、どうもお酢のような匂いがするのでした。

原文を見る

ところがその香水は、どうものようなにおいがするのでした。

「この香水はなんか酸っぱい匂いがするぞ。どうしたんだろう。」

原文を見る

「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」

「間違えたんだ。女中が風邪でも引いて間違えて入れたんだ。」

原文を見る

「まちがえたんだ。下女が風邪かぜでも引いてまちがえて入れたんだ。」

二人は扉を開けて中に入りました。

原文を見る

二人は扉をあけて中にはいりました。

扉の裏側には、大きな字でこう書いてありました。

原文を見る

扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。

「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。申し訳ありませんでした。

原文を見る

「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。

もうこれだけです。

原文を見る

もうこれだけです。

どうか体中に、壺の中の塩をたくさん

原文を見る

どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん

よくもみ込んでください。」

原文を見る

よくもみ込んでください。」

なるほど立派な青い瀬戸物の塩壺は置いてありましたが、今度こそ二人ともぎょっとして、お互いにクリームをたくさん塗った顔を見合わせました。

原文を見る

なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどというこんどは二人ともぎょっとしてお互にクリームをたくさん塗った顔を見合せました。

「どうもおかしいぞ。」

原文を見る

「どうもおかしいぜ。」

「僕もおかしいと思う。」

原文を見る

「ぼくもおかしいとおもう。」

「注文がたくさんというのは、向こうがこっちに注文しているんだよ。」

原文を見る

沢山たくさんの注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」

「だからさ、西洋料理店というのは、僕の考えでは、西洋料理を来た客に食べさせるんじゃなくて、来た客を西洋料理にして食べてやるという店ということなんだ。これはつまり、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」

原文を見る

「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやるうちとこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」

ガタガタガタガタ震え出して、もう何も言えませんでした。

原文を見る

がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。

「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」

原文を見る

「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」

ガタガタガタガタ震え出して、もう何も言えませんでした。

原文を見る

がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。

「逃げ……。」

原文を見る

げ……。」

ガタガタしながら一人の紳士は後ろの戸を押そうとしましたが、どうでしょう、戸はもう少しも動きませんでした。

原文を見る

がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸をそうとしましたが、どうです、戸はもう一分いちぶも動きませんでした。

奥にはもう一枚扉があって、大きな鍵穴が二つついていて、銀色のフォークとナイフの形が切り抜いてあり、

原文を見る

奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあって、

「いや、わざわざご苦労様でした。

原文を見る

「いや、わざわざご苦労です。

大変うまく仕上がりました。

原文を見る

大へん結構にできました。

さあさあ、お腹の中にお入りください。」

原文を見る

さあさあおなかにおはいりください。」

と書いてありました。

原文を見る

と書いてありました。

おまけに鍵穴からはキョロキョロと二つの青い眼玉がこちらをのぞいています。

原文を見る

おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉めだまがこっちをのぞいています。

「うわあ。」

原文を見る

「うわあ。」

ガタガタガタガタ。

原文を見る

がたがたがたがた。

「うわあ。」

原文を見る

「うわあ。」

ガタガタガタガタ。

原文を見る

がたがたがたがた。

二人は泣き出しました。

原文を見る

ふたりは泣き出しました。

すると戸の中では、こそこそとこんなことを言っています。

原文を見る

すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。

「だめだよ。もう気づいたよ。塩をもみ込まないみたいだよ。」

原文を見る

「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」

「当たり前だよ。親分の書き方がまずいんだ。あそこに、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、申し訳ありませんでしたなんて、間の抜けたことを書いたもんだ。」

原文を見る

「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、お気の毒でしたなんて、間抜まぬけたことを書いたもんだ。」

「どっちでもいいよ。どうせ僕らには骨も分けてくれやしないんだ。」

原文を見る

「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けてれやしないんだ。」

「それはそうだ。でももしここに奴らが入ってこなかったら、それは僕らの責任だぞ。」

原文を見る

「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だぜ。」

「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さんたち、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お皿も洗ってありますし、野菜ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなた方と野菜をうまく組み合わせて、真っ白なお皿に乗せるだけです。早くいらっしゃい。」

原文を見る

「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。おさらも洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせるだけです。はやくいらっしゃい。」

「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラダはお嫌いですか。そんならこれから火を起こしてフライにしてあげましょうか。とにかく早くいらっしゃい。」

原文を見る

「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはおきらいですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」

二人はあまりの恐ろしさに、顔がまるでくしゃくしゃの紙くずみたいになり、お互いにその顔を見合わせて、ぶるぶる震え、声も出ずに泣きました。

原文を見る

二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑かみくずのようになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。

中ではフッフッと笑ってまた叫んでいます。

原文を見る

中ではふっふっとわらってまたさけんでいます。

「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては、せっかくのクリームが流れてしまうじゃありませんか。へい、ただいま。すぐ持ってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」

原文を見る

「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角せっかくのクリームが流れるじゃありませんか。へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」

「早くいらっしゃい。親方がもうナプキンをかけて、ナイフを持って、舌なめずりして、お客様方をお待ちですよ。」

原文を見る

「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」

二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

原文を見る

二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

そのとき後ろからいきなり、

原文を見る

そのときうしろからいきなり、

「わん、わん、ぐわあ。」

原文を見る

「わん、わん、ぐゎあ。」

という声がして、あの白熊みたいな犬が二匹、扉を突き破って部屋の中に飛び込んできました。

原文を見る

という声がして、あの白熊しろくまのような犬が二ひきをつきやぶってへやの中に飛び込んできました。

鍵穴の眼玉はたちまち消えて、犬たちはうぅと唸ってしばらく部屋の中をくるくる回っていましたが、また一声

原文を見る

鍵穴かぎあなの眼玉はたちまちなくなり、犬どもはううとうなってしばらく室の中をくるくるまわっていましたが、また一声

「わん。」

原文を見る

「わん。」

と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。

原文を見る

と高くえて、いきなり次の扉に飛びつきました。

戸はガタリと開いて、犬たちは吸い込まれるように飛んでいきました。

原文を見る

戸はがたりとひらき、犬どもは吸い込まれるように飛んで行きました。

その扉の向こうの真っ暗やみの中で、

原文を見る

その扉の向うのまっくらやみのなかで、

「にゃあお、くわあ、ゴロゴロ。」

原文を見る

「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」

という声がして、それからガサガサと音がしました。

原文を見る

という声がして、それからがさがさ鳴りました。

部屋は煙のように消えて、二人は寒さにぶるぶる震えながら、草の中に立っていました。

原文を見る

室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。

見ると、上着や靴や財布やネクタイピンが、あっちの枝にぶら下がっていたり、こっちの根元に散らばったりしていました。

原文を見る

見ると、上着やくつ財布さいふやネクタイピンは、あっちのえだにぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。

風がどうっと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はカサカサ、木はゴトンゴトンと鳴りました。

原文を見る

風がどうといてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

犬がフウと唸りながら戻ってきました。

原文を見る

犬がふうとうなってもどってきました。

そして後ろからは、

原文を見る

そしてうしろからは、

「旦那あ、旦那あ、」

原文を見る

旦那だんなあ、旦那あ、」

と叫ぶ声がします。

原文を見る

と叫ぶものがあります。

二人は急に元気が出て

原文を見る

二人はにわかに元気がついて

「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」

原文を見る

「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」

と叫びました。

原文を見る

と叫びました。

蓑帽子をかぶったベテランの猟師が、草をざわざわと分けてやってきました。

原文を見る

簔帽子みのぼうしをかぶった専門の猟師りょうしが、草をざわざわ分けてやってきました。

そこで二人はやっと安心しました。

原文を見る

そこで二人はやっと安心しました。

そして猟師が持ってきた団子を食べ、途中で十円分の山鳥を買って東京に帰りました。

原文を見る

そして猟師のもってきた団子だんごをたべ、途中とちゅうで十円だけ山鳥を買って東京に帰りました。

しかし、さっき一度紙くずみたいになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お風呂に入っても、もう元のようには直りませんでした。

原文を見る

しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、東京に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。